魔の海へ

星村悠木

第1話

ずいぶん前の話になるが、不思議な能力を持ってた女性の知り合いがいた。


ナースではないが、同じ医療系の職種だった。

普通に接してるぶんには、特に変わった様子は無いが、何となく陰がある感じがした。

それが何かは分からない。ただ何となくという程度だった。

そう最初は。


彼女には、いわゆる双極性障害みたいな症状があって、それを本人も自覚していた。

僕はそれほど酷い状態の時を見た事は無かったが、彼女の身辺では不思議な現象がよく起きた。

彼女が身につける水晶のブレスレットが弾けて壊れるのだという。

水晶だけでなく、アメジストやラピスラズリも駄目だった。

その残骸を見せてもらったが、もれなく石が割れていた。

しかも石を金槌とかで叩いた時に出来るクラックは無い。

スパッと綺麗に割れてるようにしか見えなかった。


「これ、わざと壊した訳じゃないよね?」


僕がそう聞くと、なんでわざわざそんな事をしなくてはいけないのか。

そもそもこんな風にどうやったら壊せるのかと、彼女は答えた。

僕を含めた知り合いとは、基本的に状態の良い時しか話さなかったようで、ダウン傾向の時は常に死ぬ事ばかり考えてしまうと、調子の良い時に教えてくれた。


そんな毎日を過ごしていたある時、最大級に酷いダウン状態がやってきた。

耐えられなくなった彼女は電車に乗り海へ向かった。

もう死ぬ事しか考えられなかったという。

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