聖者の半分
落花生
第1話君と出会って、君と死んだ日
歩道橋を渡るために階段を上っていた俺のスマホに、もう何十通目かわからないお祈りメールが届いた。就職活動中の学生におくられてくる『あなたのこれからの活躍をお祈りしています』という文面のメールは、もう見飽きた。
そんなにお祈りしているならば、入社させてくれと叫びたくなる。以前、大学の先輩が「合コンの成功率は、就職活動の成功率よりも高い」といっていたが、その言葉は現実味を帯びている。
少なくとも合コンに来る女の子は、数百人……数千人の男の子からアプローチなんて受けないだろう。だが、企業という女の子が数百人、数千人の学生からアプローチを受けているわけである。
なんてこった。
「就職なんて、俺なんかには無理なのかね」
そんなことを言いながら、俺は歩いていたのだ。
――夜の歩道橋を。
――電車の時間を気にしながら、少し急いで。
見つけなければ良かった。
でも、見つけてしまった。
「おい、おまえ。何をやっているんだよ……」
歩道橋の真ん中に、小学生がいた。
その小学生は黒いランドセルを背負ったままで、歩道橋の柵を乗り越えていた。彼の足の下には、スピードを出して走る車の群れ。手には、近頃やたらとはやっていた歴史の本。
企業へのアピールに読書好きってことを強調したくて、俺も最近読んだ本だった。たしか、書き出しにすごい救いがないことが書かれていたんだっけ。
「あなたの言っていたことを痛感したんだ」
小学生は、ぽつりと呟く。
「自分なんかには無理だ……人間は救えない」
何を言っているのか分からない。
そう思っていた瞬間に、少年の体が動いた。
「危ない!!」
俺は小学生に向って手を伸ばし――そして記憶は途絶えている。
たぶん、死んだのだろう。
落ちていく俺が最後に思ったこと言えば、小学生が手に持っていた本の書き出しの言葉だった。
『人類の歴史には始まりから最初まで、戦争がつきまとうであろう』
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