心臓を交換しましょう。

みりん

第1話   

目の前で人が轢かれた。


普通乗用車と自転車の接触だった。


救急車のサイレンがなると、周りの建物からも野次馬が集まってきた。

私は自転車に乗っていた男性のカバンなどを拾い上げて、救急隊員に手渡していた。


ごめんなさい、不謹慎で。

でもそれに乗っているのが「彼」じゃなくて本当に良かった。

だって彼だったら、私はまた心を痛めなくちゃいけない。


なんで振られたの、という痛み。そして、戻ってこないことに対する大きな不安。


彼と代名したその人物は、正しくは「元、彼氏」である。


元、彼氏と呼ぶのも多少心が痛い。


片思いがうらやましい。まだ結ばれるチャンスがある。

一度失われた愛情というのは基本、もう一度取り戻されることはない。

それは燃え尽きてしまったライターのようなもので、燃料のなくなったライターは火がつかなくなってしまうのと同じ原理だ。


戻りたいなあ、と、遠ざかるサイレンの音にため息が混ざった。

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