通り過ぎた文字たちは

流々(るる)

十角館の殺人/綾辻行人

 最初に取り上げるのは「十角館の殺人」。

 この企画を考えたとき、まず最初に浮かんだのがこの作品です。


 現在の第三次推理小説ブーム(←自分の中の)のきっかけとなった、記念すべき作品は、作者の綾辻行人さんにとっても記念すべきデビュー作であり、「館」シリーズの第一作です。(←後で知りました。(^^;))


 この頃の私は精神的に不安定でした。一人になる時間を望みながらも、一人の時間を持て余す、そんな感じ。本を読むということからも十年以上遠ざかっていたので、文字の世界に入り込むことにも気付きませんでした。

 あの時、何で本屋に足が向いたのか、覚えていません。

 暇つぶしに何か雑誌でも買おうとしたのかもしれないけれど、ふと目に留まったのが「十角館の殺人」の文庫本でした。

 綾辻さんの名前を知っていたことと、おそらく「館」の文字に魅かれたのだと思います。十数年振りに買った、この一冊の文庫本がその後の人生を変えたと言ってもいいと思っています。

 あれがなければ、今こうしてキーボードを叩いていることもなかった筈だから。


 読み進めるうちに物語の世界に引き込まれ、犯人を推理していきましたが……

 犯人が分かった瞬間の、あの一行の衝撃。


 あの衝撃は今でも鮮明に覚えています。

 あれに並ぶような作品は――ないと書こうとしていたけれど、改めて思い返してみると「カラット探偵事務所の事件簿/乾くるみ」も最後に『やられたぁ』と思わせてくれた作品です。

 あの衝撃がきっかけで「館」シリーズを順に読み始め、第三次推理小説ブームへと突入していくことになります。


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