11

 ボォ……ッ!


「!!!!」

 ビリビリと全身に鳥肌がたった。いづみは体をこわばらせたまま、白い化け物が大きく膨れ上がって男たちの方に伸びたのを見た。

「オオオオオオオォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 ソイツはけたたましい声で叫び、彼らを一気に噛み切った。

 またも散る。悲鳴と血。

 一瞬だった。

 男たちは一瞬で血を流しながら、卒倒した。

 そして部屋が静寂に包まれるのと同時に、メグの左手の白い光は、しゅんと消えていった。

「……いづみ」

メグが口を開く。

「へ……!? う、うん……!?」

「俺が怖いと思ったか?」

 なにを言い出すんだメグ。そう思った。

「……うん」

 だが、素直に頷いた。嘘をつくようなタイミングじゃない。

「……なら、俺にあまり近づくな……。行くぞ!」

「え! う! うん!」

 走り出したメグについて、いづみも駆け出した。

「あ! 制服!」

「今気にするか!?」

 メグが振り向いて思わずつっこむ。

「……はは」

 いづみはそのメグの顔に、少しだけほっとした。非現実的な体験をした恐怖はまだ拭いきれてはいないけど、今前を走るのはいつものメグだったからだ。だからいづみは黙って彼について走った。階段や隠し通路のような細い道を抜けて。

「こっちだ!」

「……うん!」

 いづみの方が足が速いので、途中、彼女は何度もメグにぶつかりかけた。

「大丈夫か……っ?」

「……メグが」

 息を切らすメグに対し、さらっとした顔のいづみがメグの体力を案ずる。メグは心配して損した気持ちになると同時に、彼女の女離れしたスタミナに呆れた。

「もうちょっとだ」

「うん!」


 ガン!


 なかなかひどい音とともに、ようやっと外の空気に触れた。むわっと初夏の風を感じる。

「……っ!?」

 しかしその瞬間、今度こそどすっとメグにぶつかってしまった。

「え!?」

 なんで止まるんですか。と文句を言おうとした。けれど、その理由はすぐに分かった。

「あ……」

 目の前に例の責任者の男。そしてその後ろに何人もの男たちが並んでいたのだ。

「……お前……」

 メグが睨む。その目線の先には責任者の男。彼は少し眉を寄せながら口を開いた。

「メグ。その方は大蕗 祀さんではないのか」

「……あぁ」

「……。なぜそんな嘘を?」

 男はじっといづみのほうを見た。とがめるように。

「嘘……っていうか、そっちが間違えただけじゃない!」

「訂正くらいしてもいいだろう」

「……っ」

 正直。さっきのメグよりも怖いと感じてしまった。この男の眼には一切の温かみを感じない。

「で、本物の大蕗 祀は、どこに?」


 ――変なことに巻き込まれにいってしまった、とはずっと思ってた。


 それを心底後悔させるような、絶対的な絶望感だった。

 やばいところに来てしまった。いづみはこの時、そう確信した。


 第11話 終

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