転生したら氷の美少女になってました
るー
第1話
突然だが、自己アピールをさせてもらおう。俺、
いつから使えたのかは不明。一つ言えることはそれが先天的なものでは無いと言うこと。小さい頃は使えなかったのだから確かとも言えよう。
と、ここまで説明したところで多分誤解された人も大勢居るかと思うから念のため言っとくが俺は中二病ではない。
確かに年齢こそは十四歳と実際中二に当たる年なのだが、ここではっきり違うと否定させてもらう。
ビコーズ、何故なら俺はそこまで自分の力を過信していないし、未知の力なんてそもそも無いものだと思っているからだ。
中二病を患ってた方には今の説明で俺が同類ではないと分かっただろう。……そして、分かってしまったそこの君。病院行ったほうがいいかもな。自分で言っててなんだが、さっぱり意味が分からない話だった思う。
……話が逸れた。軌道を戻そう。
先程俺は先天的ではないと言ったがそれには当然理由がある。それは、その特技が使えるようになった要因の心当たりが山々あることだった。
おっと、言い忘れていた。
人の心を読むこと。それが俺の特技だ。
□
片桐天音は私立中学に通う一般的な中学生二年生だ。
顔も悪くはないし、特別勉強が出来ないわけでもなく運動が出来ないわけでもない。
だが、彼はイジメられていた。
YDK。
努力すれば何でもそこそこにこなす彼を面白く思っていない輩がいたのだろう。小学三年の夏、それは突然始まった。
と言っても始めはどこも一緒のようで、物を隠されるとかその程度の事だったため彼自身も「いずれ飽きるだろう」と特に気にしなかった。
しかしそんなことも長らく続けば感覚が麻痺してくる。
それを狙っていたか、あるいは偶然かは分からない……がある日を境にイジメはエスカレートしていった。
それこそ六年生の頃には物陰に連れ込まれ直接暴行を加えられるぐらいに。
しかも彼が通っていた小学校はエスカレータ式に中学へ登っていく私立校だったので中学生に上がっても状況は改善しなかった。
ある日を境に天音には心を読めるという唯一無二の特技が身についた。これは推測だが、「これ以上殴られないように相手が求めることをしよう」と体が独自の進化を遂げたのだろう。
初めは相手の目を見ることでぼんやりと望むことが分かるぐらいだったが、今では半径十メートル以内に入った相手の行動さえもしっかり見ることが出来るようになっていた。
□
そして現在---。
「おい、ザコ!俺は喉が乾いたぞぉ!」
「今日は特別に後三発で勘弁してやるからコンビニ行って何か買ってきてくれよぉ!勿論お前の奢りでな!」
放課後。いつものように四人の男子に体育館裏に呼び出された俺は、既に二発拳を入れられながらもそんな要求をされていた。
ちなみにいつもは二十発は確実に殴られるのでそれが高々数百円の出費で五発に済むのは安いものだ。ついでに一定期間コイツら見なくて済むしラッキーだな。
そんなことを考えていると右頬に鋭い痛みが走った。即答しなかったことに腹を立てたのだろう。リーダーらしき男子が舌打ちをする。
【テメェは俺達の奴隷なんだよ!拒否権もなければ人権もねぇんだよ!さっさと買ってこいや!!!】
……とんでもないな。拒否権ないことは何となく察してたけど、せめて人権はあると思ってた。
半径十メートル。その範囲に入った者の思考を即座に読み取ることが出来る特技を持つ俺は、リーダーらしき男子の心を読み苦笑をこぼす。
そこに怒りはない。
本能に従って怒り狂い、すぐにでも仕返してやりたいとは思う。だが思うだけだ。
数が多すぎるのだ。
タイマンならとにかく複数相手となると思考が入り混じり行動の先読みが出来なくなるので逆にやられるのは目に見えている。
やられると分かっていて反抗するのはバカバカしい。そういう少年漫画の主人公みたいな心は生憎持ち合わせてない。
だから、俺は最善の手を打つだけだ。これ以上「殴られないため」の最善の手を。
「何がいいんだ?」
「は?」
もうスッカリ軽くなった財布を取りだし聞いてみると、唖然とした反応が返ってきた。
いや、お前らが買ってこいって言ったんだろ。国語力ゼロかよ。
少々イラツキながらも今度はしっかり主語を付けて聞く。
「だから飲み物は何がいいんだって聞いてるんだ」
「フュー!マジで買ってきてくれるのかよ!いやぁ、お前のような優しいダチがいてサイコーだわ!じゃあ俺コーラで頼むわ!」
「俺はメロンソーダで!」「俺もコーラ!」「烏龍茶を頼む」
「分かった。じゃあ行ってくる」
やっぱ金は偉大だな。さっきまであんな関係だったのにもう友達が出来たぜ……。へへっ…………こんな友達いらねぇ………。
まさに手の平返しの言動に内心呆れるが、まだ多少痛む頬を押さえると、そのまま何も言わずコンビニへと向かった。
□
「うわっ……最悪だ」
三本の炭酸飲料の缶と烏龍茶が入ったビニール袋を片手にコンビニを出るといつの間に降り始めたのか激しい雨降っていた。
今、手元には傘はない。
……借りてくか?いや、それだとアイツらと一緒になっちまう。アイツらと同類とか御免被る。勘弁してほしい。俺はピュアでいたいんだ。
チラとコンビニの前に常駐してある傘立てを見るが、ブルブルと顔を横に振って自戒し、結論を出した。
「走っていくか」
そうと決まれば早い。
未開封だから心配入らないと思うが念のためビニール袋を二重結びにするとそれを頭の上に掲げ、駆け出した。
屋根がある場所から出た瞬間、大粒の雨が殴るように落ちて来る。が、それは足を止めても同じこと。気にせず走り続ける。
……それにしても、アイツらは一体どこに居るのだろうか。
まだ走り始めてから一分も経ってないのに、雨を吸い肌にくっつく、すっかり重くなった服にイライラしながらそんなことを考えた。
体育館裏には雨宿りできる場所がない。だからいくら奴らが馬鹿だとしても同じ場所に留まっているなんて考えられない。
馬鹿は雨の中でも走り回るイメージがあるが、奴らは馬鹿な上にクズなのだ。イメージは当てにならない。
……まぁ、どこにいるかは知らんがとりあえず学校へ向かえばいいか。会えなかったとしてもちゃんと行ったっていう実績が残せるしな。
それに……アイツらのために考え事するなんて知能の無駄遣いだ。
ーーーなんて考えながら走っていたのが悪かったのだろう。考え事に耽っていた俺は周囲に目を向けていなかった。
それは学校の前の交差点を通ろうとしたときだった。
けたたましいクラクションが鳴ったかと思うと尋常じゃない痛みとともに俺は宙に放り出されていた。
スローモーションのように時間が進む中、瞳は黒い大型車を捉え、瞬時に理解する。
俺はあの車に跳ね飛ばされたのだと。
これは夢か、とは思えなかった。
大型車のミラーには自分の血飛沫が映っていて、体は軋みバギバギと不協和音を奏でている。そして全身に焼けるような激痛が伝って………そんな現状に疑いなど持てるはずがない。
俺は死ぬんだな。むしろそう確信した。
それにしても人は死ぬ前に走馬灯を見ると聞くが、それは嘘だったのか。
身体が地面に落ち何度もバウンドしてる最中、未だに見えない走馬灯に苦笑する。
脳が生命危機を察知して痛覚を遮断したのだろうか、バウンドが収まる頃には焼けるような激痛は既になくなっていた。
それを機に痛覚だけではなく徐々に聴覚、嗅覚と機能を失っていく。
やがて視覚も消えようとしているのか、ボロ雑巾みたいに道路の脇に転がっていた俺の視界が暗闇に染まる。
否、視覚だけでなく命の灯までが儚く消えようとしてるのは誰の目から見ても明らかだった。
……呆気ない人生だったな。………まぁ、終われて良かったのかもしれないな。
………何のために俺は生まれたんだろうか。
最後にそんなことを思いながら、片桐天音は絶命した。
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