第3章――〇〇高校入学、知られざる光景

行政高校

 


 《法》こそが《正義》。《正義》こそが《絶対》。


 それは日本という国の信念であり、国民の中で息づく常識だ。

 例えどんな理由があろうと、どんなに幼かろうと、法を犯した者は命をもってして償わなければならない。何故ならそれが“正しい”からだ。


 だが、全ての人間がこの考えを受け入れているわけではなかった。 

 日本には二種類の人間が居る。

 法に従う者、法に不満を持つ者。


 国民の大多数は法を受け入れ、法によって作られた日常の中を生きている。

 だが、それに対して10%にも満たない人間は反感を持っていた。彼らは納得できなかった。その“理不尽”な考えを、傲慢な主張を、どこまでも非道な罰を。

 しかしそれは、から見たらとても異常で、危険な思想に思えて、人はいつしかこの10%にも満たない人間たちをこう呼んだ――《Bloody-minded》(通称ブラッド)――法を受け入れず、犯罪者を受け入れる“非常識”、或いは“偏屈”な屑、と。

 ブラッドは《低俗な人種》であり、忌避すべき対象なのだ。


 世界は今や精神主義社会。

 健全なる精神と力を持つものしか上に立つことを許されない世界。

 そのトップを飾るのが機関士――行政機関に身を置く者たちだ。類稀なる《精神》と《力》をもって国を守り、民を救い、秩序を作り上げる彼らこそが、国家の力であり、顔そのものとなっていた。


 ――そんな、《機関士》を目指す人間たちが集まる学び舎があった。

 名前は、行政ぎょうせい高校こうこう――正式名を「国立行政機関付属高校こくりつぎょうせいきかんふぞくこうこう」。

 

 毎年、行政機関へ最も多くの卒業生を職員として送り込んでいる高等行政教育機関として知られている。それは同時に、誰もが憧れる《行政機関士ぎょうせいきかんし》(略称――機関士)を最も多く輩出しているエリート校を意味していた。行政高校の卒業試験は、行政機関士試験と同等のもので、結果次第ではそのまま機関に所属することが出来るのだ。

 この学校に入学を許されたということ自体が《エリート》ということであり、それを知らぬものはいない。


 最も厳しく、最も過酷な難題を強いられる環境。

 誰もが機関士となることを目指し、崇高なる使命と信念を掲げる其処は“正義感”で満ち溢れた学生たちが集う聖地だ。

 徹底した精神主義。

 残酷なまでの実力主義。

 それが、機関士の世界。


 同時に、其処は《ブラッド》という人種にとって、最も生きにくい場所だった。

 正義感の強い生徒たちが集まるからこそ、彼らは蔑みの目を向けられ、嫌悪と憎悪という悪質な感情で精神を蝕まれる。


 例え同じ新入生であっても、どんな才能があったとしても、精神主義社会で《ブラッド》が平等に扱われることはない。

 彼らはいつだって《危険分子》として見定められる、下等な人種なのだから――。




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