~魔王様からの入電記録??~


西は楽しそうな顔で、マイクをミュートモードにして、話しかけてきた。


「あの、魔王さんが凄いです」


「にっしー、なに遊んでんの?」


「いやいや、この感動を是非、チャラ男にも提供しようと!」


「まあ、いいや、魔王はなんだって?」


「いえ、なにも言ってません」


「おいおーい」


「まあまあ、ちょっと聴いてくださいよー!」


そんな西のお遊びに付き合う時間もテレオペの人員もないのだが、西は言いだしたらきかない。

どうせ、折り返しか、修理なら少し休憩を入れるのもいいだろうと考えた。


「んじゃ、にっしー、休憩」


「やったー。もう今日は20件以上も修理案件とってクタクタです」


美声と共にセンタータイピング最速を誇る西である。

この午前中だけで20件も修理案件を終わらせている。

西は基本的に話しながら同じ内容をPCに打ち込めるほどの速さのタイピングができる。

その為、他の案件もかなり早いが、こと修理案件に関してこのスピードは命だ。

西の速度が落ちれば、センターの待ち時間は30分以上になる。

的確な時間に休憩を入れるのもSVの仕事である。


西は席を立って、直人に席を譲り、休憩質へと手を羽のように振りながら行った。

西、曰く、腕と指が疲れた時の踊りらしい。

ひょいとヘッドセットを付けて、直人は席についた。

ミュートを解除する前からずっと聞こえていた、魔王のなぞの声が明確に耳に入ってくる。


「・・・で、あるからして、ここにワシは新たな魔王戦を開始する事を決意したのじゃ!」


何を決意したって?


「魔族種が冒険者という勇者ぼうりょくによって一方的に狩られて、魔族の子供は高値で販売され、親は素材として殺され、あまつさえ魔族が金をもっていると見るや追い剥ぎさながらに殺すという鬼畜生の所業!!もはや度し難い冷酷さは目に余るのではないか!?」


そーだそーだと大きな声が向こう側から聞こえてくる。

恐らく誰にでもこういう経験というのはあると思う。

特にスマートフォンの場合に多い。

服のポケットなんかに入っていると、間違えて発信ボタンを押してしまう場合があるのだ。

そして、そのままスピーカーモードになっている場合。

もちろん、そういう間違い電話がかかってくる事は少なくない。


「もはや、勇者というか人間の悪行に涙が止まらぬ!!ここに集まってくれた数少ない魔族よ!今、こそ立ち上がる時じゃ!!自らの子供の為に剣をとり戦おう!そして、目の前の人間の王城を手始めに戦火ののろしとしようぞ!!行くぞ!!」


はいはい勝手に異世界で暴れててくれ。そんでもって、サポセン忘れて、異世界征服してて。


「「「「うおーーーー!!」」」」


うっさ。さっさと切ろう。


「さっそくじゃ!我の必殺技!!魔王の攻撃じゃ!!」


あはは。技名がダサすぎて笑える。

西ではないが、これじゃ、面白すぎて切れない。

と思った直人の耳はもの凄い破壊音によって、周りの音が消えた。


どごおおおおおおおん。


「魔王だ!!」


「魔王がいるぞ!!」


「魔王がいた!!」


「魔王だ殺せ!!」


「魔王が城に攻撃した!!」


「愚かなり、勇者よ。者共、勇者は一匹残らず捕まえよ!!」


「「「「はいっ」」」」


「一匹につき高い報奨金を払うぞ!!女子でも金でも宝石でも好きなものを与えてやろう!!殺すでないぞ!転生されては厄介じゃ。死なぬ程度に石化でもかけて魔王城に飾ってやろうぞ!!ふはははははは」


実に楽しそうに笑う魔王の声に直人はどこで切ろうかと考えていた。

切ったらこの後の物語ストーリーは分からない。

だが、ここは仕事場であり、遊び場でもなければ話を盗み聞きする場所でもないのだ。

実に気になる話題ではあるがここは切ろう。

直人はマイクのミュートを解除した。


「お客様、お客様・・・」


これで、反応がなければラッキーだ。

さっさと切って、入電記録をつけておしまいにできる。

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