~魔王様からの入電記録6~

「うむ。実はさっきから困っておる。ざっと1000人ほどの魂がこちらの世界に転移してな。ワシってすごいじゃろ。まあ、とにかく、大勢でめちゃくちゃ強そうなステータス持ったまま来たから、ワシもう困り果てておってな。昨日の今日じゃろ?なんでクレーム入れたら逆に大量に輸入されてきちゃうのって感じで、このままじゃ、ワシの住む異世界とか魔族根絶されて、エンカウントできない勇者絶対いるじゃろ?困るじゃろって思って、もはや早めにご意見とか通してほしいんじゃが・・・なんとかならんかの?」


ケース1:大抵の常習クレーマーは何故か毎回同じ人間を指名したがる。コールセンターはテレクラではないので、チェンジも指名もできないシステムになっている。それを毎回してくるのは、友達だと錯覚している為である。センターの人間は冷たいようだが、面識のない人間にそう擦り寄られてもたいして面白くもない。


「申し訳ございませんができかねます」


「あーわかっておる。ちよっと言ってみただけじゃ。で、直人、こういう場合はどうしたら良いと思う?」


「お客様のご考えにわたくし如きがご意見できるとは思えません。お客様のご意見が一番かと・・・」


あくまで、自分は下手なんです、お客様が一番偉いんですという作戦。適当にその内、自分が持ってた答えにたどり着き、やっぱりそう思うよね。という謎の安心感におちついて、自分は異常じゃないという自己暗示をさらに深めていく。もはやクレーマーの闇になりつつある。


まくし立てる客はクレーマー?

意味のわからんヒキニートのクソみたな理論でバカ論破されるより、なお腹立たしい。

お詫び権よこせとかセコイ事をいう奴よりタチが悪い。

とにかく、夏休み前にこの魔王からの電話が途絶えるように祈った。


「やっぱり、思うじゃろ、1000人とか尋常じゃないって。じゃから、ちょっと半分ばかり人間減らそうと思うておってな。やはり直人も同じ意見かの」


せめて、サマーバーゲン前に終わりますようにそう祈りながら、ニコニコと直人は答えた。

サポセンは腐っても接客業。笑顔を忘れちゃいけない。


「お答えできかねます」


「じゃよな。じゃよな。今回は数が数だし仕方ない。ワシ一人で1000人倒すとかもはやハードワーク過ぎて倒れるって。んじゃ、ワシ今から人間半分にしてくる。しばらくは電話しないからの!」


魔王は軽く明日の天気は雨だから存分に水浴びでもしようかというような口調で電話を切った。

っていうか、友達からレベルアップして恋人になる気でもあるのか、『電話しないからの』とか意味わからん。と、直人は考える事をやめた。


俺がいるのはここで、ファンタジー世界に地獄絵図が出来上がったとして関係ない。

むしろ、俺が気にすべきはサマーバーゲンで編み出される地獄絵図のセンターの様子だと。


そう、池田直人は思っていたのだが、夏前の足元はトラップだらけだっだ。

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