あの骨董品店には、大きな謎が隠されている。

前編

「あら、いらっしゃいませ。」

店に入ると、にこやかに14歳ほどの少女が出迎えてくれる。

「今日はどんなものをお探しで?」

いつの間にか少女の隣には同じく14歳ほどの少年が。

「ココに来れば、知りたいことを教えてくれるってホント?」

客の問いかけに、

「ええ。ここにある品物を1つ買ってくだされば、謎解きのお手伝い、させていただきますよ。」

少年が答え、

「ですが、ご注意下さいね?」

すかさず少女が言う。

「「商品を買って頂くには、その商品と同等の代償を支払って頂かなければなりません。」」

1つ間をあけ、妙に迫力のある言い方で喋べる姿は、14歳ほどの見た目からは想像が出来ないようなものだった。



「お目当ての物は見つかりましたか?」

少年が声をかける。客が来てからかれこれ1時間が過ぎようとしていた。

「いや、それが、どれもこれもピンとくるものがなくて...あぁ、いや、ここの商品が悪い訳じゃないんだよ?ただ、ね。」

妙におどおどとしている客だ。と、少女は聞きながら思う。普段の客も代償と聞くとビクビクするものだが、この客はどうも、代償に怯えているというよりは、自分達に怯えているようだ。

「どうかされましたか?」

「え!?」

「...」

これは何かあるわね...と少女は少年に目配せをする。

「あの、もしかして、何かお探しの物がおありでしたか?」

少年が少女からの合図で、客に言う。

「...分かりましたか。」

いや、あんだけおどおどしてたら分かるだろ。とは、2人とも口が裂けても言えなかった。

「はい、なにか、探しているような素振りでしたので。」

あえて、先程の客の態度は指摘せず、少女がそうきりだすと、

「実は、ある手鏡を探しているんです。」

「「手鏡?」」

少年と少女の声が重なる。

「はい。祖母の形見なんですが、ある日突然消えてしまって。」

「消えて?」

思わず、といったような様子で少年が尋ねる。

「はい。消えたんです。」

「それは、無くした、などではなくて?」

少女も問いかける。

「...はい。」

「そう、ですか...」

少女はなにかを考える素振りで返事をした。

「こんな話、信じて貰えませんよね。」

すみません。と客が頭を下げる。

そんな客に少女は、

「いえ、ここに来るお客様の中には、そのような摩訶不思議な体験をなされた方もいらっしゃるのです。」

と、とても綺麗に微笑んだ。



「...なぜ、」

客はその少女のから目が離せずに、ゆっくりだが声を出した。



正確には少女の隣にいる女性を見ていた。

「ばあちゃん...」

客の呟きが店内に響く。

女性は微笑むだけで言葉を発さない。

だが、その瞳が、全てを物語っている。

「この方は数日前、1度この店に来られました。」

「数日前?」

客は戸惑っていた。

「はい。」

「そ、そんなはずは...」

「つい、2、3日前に来られましたよ。」

少年からそれを聞き、客は戸惑いを大きくした。

「あり得ないですよ!祖母は、3年前に亡くなっている!!」

「はい。」

「死んでいるのにどうやってここに来るんだ!」

思わず客の口調が乱れる。

「ここが普通の店では無いからです。」

そう言った少女の方を見て客は息をのんだ。

言葉にでは無く、少女と、その隣の少年の姿を見たからだ。

「私達は人間ではありません。」

そういう少女らの頭には、ピクピクと動く猫の耳らしきものがある。

「俺達は、猫又なんです。」

「猫...又...?」

「はい。」

「あぁ、話が少し逸れました。」

「なぜ、貴女達は猫又なのですか。」

客はなおも話を続けようとする。

「そのようなことはお客様には関係ございません。もし、本当に知りたいとおっしゃるなら、此処の商品を買っていただければお教え致しましょう。ただし、商品はある特定のものでないと行けませんよ。それにその商品の代償はとても高いので、あまりおすすめできません。」

「......」

「それでは、先程の説明、貴方のお祖母様がこちらにいらっしゃった理由をお教え致しましょうか。」

有無を言わせぬ少女の声に、客は何も言えずにただその場の雰囲気にのまれていた。

「まず、ここは普通の店ではないので、お客様も様々な方が来られるとご説明しましたが、ごく稀に普通のお客様も来られます。」

「......」

その言葉は、もう自分が普通の人間では無いということを意味しているのを、客は分かっていた。

「もう、覚悟は決まっているようですね。」

微笑みながら少女は言葉を続ける。

「この店は、あの世とこの世の狭間にあるのです。」

「そして、大抵のお客様は自分が死んでいるのか、生きているのか、知らないまま此処に来られます。」

「生きている場合もあるんですか?」

「えぇ、ごく稀にですが、いわゆる瀕死状態のお客様が来られます。人数は普通のお客様よりも少ないですよ。」

「そうなんですか。」

「はい。我々には一目で分かりますから、そのようなお客様にはすぐお帰り頂きますが。」

「なぜ?」

「いくらまだ死んでいないからと言って、此処に長く居座ってしまうと、本当に死んでしまうからです。」

「.........」

男は静かに目を見開き、体の力を抜いた。

「...それでは話を続けますね。」

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