lesson.4 楽曲はアイドルの命

「養護教諭としての意見とアタシ個人の意見。どっちから聞きたい?」

「よ、養護教諭としての意見からで」

 養護教諭、不知火シズネ先生。一番最初の自己紹介で保健室は友達って言ったけど、正確にはシズネ先生って言った方がいいのかな?

「非現実的もいいとこだ。泉野の衰えはかなり早い。5年の寿命が無理し続けたら明日にでもゼロになっちまうし、そもそも今でも数分大きな声を出すだけでしんどいんだろ?とてもじゃないが出来るとは思わないな」

「やっぱり?」

「やっぱり。んで、ここからはアタシ個人の意見な」

「はい」

「泉野は可愛い。それはアタシが保証する。楽曲やダンス、運の巡り合わせによっちゃ花咲このはを超えるアイドルになれる――アタシはそう信じてるよ」

「そ、それは言い過ぎでは!?」

「言い過ぎなもんか!アタシは泉野の両親よりお前を知ってんだ。それにアタシは嘘が苦手でね。思った事はそのまま口にしちまう性格なんだ」

 買い被り過ぎな気もするけど……

「それに今からアイドルやるって人がそんなんでどうすんの。自信持ちなさい」

「は、はい!」

「ところでスケジュール管理はどうするの?」

「美玖ちゃんに任せようかと」

「……バッチリね。一応アタシと連携するように言っといて」

「了解です」


「ということで曲と振り付けが完成次第、不知火先生とウチが作ったスケジュールで動いて欲しいっス」

『了解!』

「というか明日葉先生もよくオッケーを貰ったわよね」

「玲奈の名前を出せばいいとはボクの入れ知恵さ」

 ようやく現実味を持ち始めたアイドル計画。私だってやるなら本気だよ。その前に私が歌詞を書かないとメロディもダンスも何も出来ない。早く書かないとね

 でもその前に決めなきゃいけないことがある

「ところで、あたし達のグループ名どうしようか」

 ここで手を挙げたのがなほちゃん。意外。

6ix waterシックスウォーターはいかがでしょうか…!」

『えっ』

「だめ……ですか?」

『最高だよ!』

 6人であること、私達全員の特徴、苗字が「水」関するものが入ってることをとても端的に表しているのはいいなって思う。私には思いつかなかった。作詞担当の私がこんな事で負けるなんて……ちょっと悔しい

「玲奈、負けてられないな」

「セイラこそ、私達にピッタリな衣装作ってよね」

「任せて」

「え? お、おう」

 あとは私が作詞するだけか。気合入れよう


 帰宅後、ノートを開いて考える。どんな歌詞が「6ix water」らしいのだろう。皆の個性を見ると

セイラはなんだかんだで器用だし

沙織先輩はちびっこ会長だけど頼り甲斐があって

涙先輩は優しさの塊みたいで

美玖ちゃんは元気いっぱいだし

なほちゃんは……発育の暴力

 そう考えると私の個性ってなんだろう。病弱?笑顔?……男装の麗人ではないよね?

 あとは苗字だ!グループ名の時にも言ったけど池、氷、滝、川、雨、泉。みごとに水に関連しているね。激しく動くものとゆっくり動くもの。それぞれが持つイメージと皆の個性、合ってるようで合ってない


「みんな違うから楽しいんだ……と」

 多分それが私が伝えたいことだと思う

 思いつくままに言葉を並べる。そしてその言葉に韻を踏ませて……

 こんな感じかな、うん。あとは一番伝えたい想いを最後に添えよう

「僕の心を、キミに届けたい」

 写メを撮ってなほちゃんに送る。オッケーを貰ったら曲をつけてもらえるんだけど……

 30分後メールが来た。10行近くの賛辞の言葉を要約すると、『とても美しい湖が見えた。納得できる曲を明日までに作るからお楽しみに』とのことだ。……倒れないでね?



「僕の心をキミに届けたい♪」

 言葉を失った。自分の想いが詰まったものが、こんなに素敵になるなんて。それこそとても美しい湖が見えた気がした。

「とても素晴らしい曲だね。ところでパート分けはできてるのかい?」

「もちろんです。あ、CDと歌詞カード配りますね。黒字が全員、それ以外は見ての通りってことでお願いします」

「じゃあ後はダンスね。月曜には披露できるように頑張るわね」

「さて今日はどうする?美玖、何かあるかい?」

「勿論スよ会長。今日は軽いストレッチの後に基礎トレーニング、時間があれば発声練習もしたい所っス。その後クールダウンを兼ねてもう一度ストレッチっスね」

 いよいよ、私達が6ix waterとしてのドル研が始まる。気合い入れよう!

「玲奈先輩、酸素ボンベ忘れてるッスよー!」

 ……いけね

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