第156話

 皮肉を込めたエレノアの言い回しに、りおんの制服の胸ポケットに隠れていたステッキさんは、更に自身を縮める。




「それが、ステッキさんですから……」


 かばうりおん……。


「素敵な信頼関係ですのね……今も、あの時も」


「あの時……?」


「りおんさんも薄々、気づいているのでしょう……あなたの御母様もかつて、魔法少女であったという真実に……」




「…………」


「えぇ、そうですよ……りおんさんの御母様は魔法少女でした……だって私はそれを間近で見ていたのですから……」


 憎悪を滲ませたエレノアの瞳が、りおんの「内部」に潜む「彼女」を捉え、意味深に言った……。




「やっぱり、そうだったんですね……」


 腑に落ち、僅かな時間、瞼を閉じたりおん。


「驚かないのですね……」


「なんとなく察しはついてました……突然、ステッキさんが現れて、魔法少女になって急な転校と引越し……妙に理解があってなにも聞かない父……母の事を聞いても、いつもはぐらかされて曖昧に……」


「確かにわたしは適当ですけど、その辺の勘は結構鋭いんです……」




「それに、魔法少女の母親もかつては同じ魔法少女でしたってオチは、定番でお約束ですよ……」


 精一杯の少女の背伸びを、言葉と背中で表現するりおん……。




「そうですか……でも、あなたのポーターはなにも教えてはくれなかった……という事ですか……」


「時がくれば全て話してくれるとは思っていましたよ……今も、その時だとは思いますが、事態が事態ですから……」


「そうとわかっていても、リンスロット……いいえ、みなさんの所へ行くというのですか……生きて還れる保証など、ないのですよ……」




「いけませんか……」


「あなたには、ここに留まる選択肢もある……その理由に私を使ってもいい……そうすれば誰も、りおんさんを責めないでしょう……」


「それはわたしにリンス達を見捨てろって事ですか……そうなら……わたしは……」




「わたしは……魔法少女を辞めます……」


「りおんさん……」


「その結果、記憶を消され、また転校してみんなと別れる事になるなら、わたしはリンス達と戦います……たとえ死ぬ事になったとしても……」




「止めても……行くというのですね……」




「はい……」


「そうですか……では、ここで死んでもらうしかないですね……」




「矛盾してますよ……エレノア先生……」


「…………」


「エレノア先生……わたしの母となにかあったんですか……」


 確信のりおんの問いに、エレノアの魂は震える。

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