第112話

「年金……って、国民年金とかじゃなくてですか……?」


「ぷっ……ぷぷぷっ、それってマジなアンサーバックって感じぃ……ポーターちゃんからぬぁーんにも聞いてないって感じだねぇ……ウケるぅ、超ウケるんですけどぉ……」


「す、すいません……」


 なにも説明しなかった「奴」が隠れている鞄に一瞬、鋭い視線を飛ばし、ただただ平謝りのりおん。


「別にぃ、年金払うか払わないかはフリーダムって感じだからぁ、ぶっちゃけマリカはどっちでもいいんだけどぉ、ウザッティーな監理局がうっせーしぃ、リアルに鏡花っちからお願いされたからぁ、マジだっりぃけど、皇女おうじょからわざわざマリカカミーングって感じでぇりおんちゃんに逢いに来たっしょ……」


 皇女……皇華月女子高等学院の通称である。


 シンプルだが、可憐さと色香を巧妙に融合させた「憧れ」の制服……。


 マリカが動き、言葉を弾き出す度に、日の光にあてられた通称ノーブルエメラルドの緑が、陰影を生み出し、変容し、憧れに拍車をかける。


 2年生のマリカが緑……3年生が、パッションアメシストと呼ばれる紫……1年生は、ブラッドルビーと称される赤の制服をそれぞれ着用する……。


 これら制服のカラーは3年間、固定される。


 つまり、パッションアメシストの3年生が卒業すると、新1年生が「紫」を継承してゆく。


 わかりやすく解けば、早くも優先推薦枠を確定したと噂されるエリザベスがパッションアメシストを……シフォンはノーブルエメラルドを……もしかしたら、りおんがブラッドルビーを継ぐ事になる……。


 個々のカラーには、伝承や逸話、恋愛に纏わる物語といったお定まりの「都市伝説」が絡み合い、少し離れた敷地に「華麗」に佇む皇女の神秘性を昇華させる……。


 故に、中等部の女子の7割が、当中等部に割り当てられた2割の優先推薦枠を争い、戦いに敗れても、一般受験生達との「熾烈」な入学試験に身を投じてゆく……。


 何故ゆえに、女子達の「魂」を惹きつけるのかは……不明ではある…。




「さぁさぁりおんちゃん……ペイするぅ……」


「あっ、じゃあ払います……」


 マリカに圧倒され、考える時間もなく、りおんは意思を示す。




「ポーターちゃん出してぇ……」


 言われるまま、りおんは鞄から奴を取り出す。


「えっと、紹介が遅れました……わたしのポーター、ステッキさんです……」


「ステッキ……さん……? パネぇ、パネぇっすりおんちゃん……ステッキさんだって、むふふ、むふふふふふっ……」

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