第26話 VSベルクート

 

「はははッ!! 去年捨てたのはお前だったのか! ここにきて復讐でもしに来たと?」

「わたしに復讐の意思なんてない、あるのはもう二度と裏切られたくない、強くありたいという想いだけよ」

「それで騎士になったと? 囮とアイテム拾いの雑用が立派に言うじゃないか、魔力も残ってないボロボロの体でなにができる?」


 エーテルスフィアが輝きを増し、超高密度の魔力を収束させ始めた。

 おそらく、いよいよ魔導砲を撃つつもりなんだろう。


 確かにわたしは平凡だ、シルカやベルクートのような上位職に就けていたわけじゃない。

 でもだからこそ、わたしは1人であがくことをやめた。


「クロエ! 思いっきりやっちゃって!!」


 倒れるミーシャの前に立ち、魔導通信機でエーテルスフィアの根本で待機しているクロエに叫んだ。


 《了解ティナ!! 3、2、1――――!!!》


 アクエリアスの大気がまるごと叩かれたような轟音が発生する、立て続けに発生した爆発はエーテルスフィアの根本で発生。

 食虫植物のようなそれが僅かに傾斜し、魔力充填がピタリと止まったのだ。


「バカなっ!!? 何をした!!」


 昇りゆく煙を見たベルクートが、動揺を隠すことなく荒らげた。


「上陸した友軍工兵による"爆破"よ、コントロールスフィアの障壁にクロエが穴を開けて、その中に爆弾を設置した。たとえ1人じゃできなくても......それぞれに特化した人間が集まれば不可能なんて無い」


 軍とは組織、組織とはチーム。

 国家権力として整備されたそれは、わたしの見る限り最強のチームだ。


「甘いんだよ王国軍ッ! 根本のコントロールスフィアがやられても、僕が持つ"ルナクリスタル"さえあれば制御できる!! カウントダウンは止まらないのさ!!」

「早い話ね、だったら――――今すぐ奪い取るッ!!」


 1年の歳月を経て、わたしとベルクートの間に火花がきらめいた。

 かつて頼りにしていた剣撃が牙をむき、互いが互いの想いを攻撃に乗せた。


 曲がりなりにも仲間だった。ベルクートの剣の鋭さは間近で見ていたわたしが一番知っている。

 知っているからこそ、今なら彼の剣筋に対処できる。


「はああッ!!!」


 体術と組み合わせての一閃、ベルクートの斬撃を弾き返した。


「人を裏切って後ろから刺す、あなたのように卑怯な人間の被害者はもう出させない! ――――ここで終わらせるッ!!」


 あんな思いをするのはわたしが最後で十分だ、今はただこいつを倒す!


「これは摂理にすぎん! 弱者は淘汰され、強者だけが生き残る!! 卑怯などという弱者のエゴを持ち込んでくれるな!!」


 ベルクートの剣に魔力が伝い、空を切った数だけ猛スピードで斬撃が飛んできた。

 かまいたちのようなそれをさばき切り、再びつばぜり合いへ持ち込んだ。


「だったら力づくで――――――――あなたをねじ伏せるッ!!」


 わたしの認識票ドッグタグに表示されたクラスレベルは、アラル村救援から今に至るまでに『55』を超えていた。

 それでもまだベルクートを倒すには足りない......! もっと、もっと決定的な何かが――――――――


「仲間など道具にすぎん! 誰かを信じて破滅するなら、自分が破滅する前に裏切るのが当たり前だろうがッ!!!」


 攻撃が重くなり、一進一退の攻防が繰り広げられる。


「闇ギルドはそうした連中の集まりだ! 【10年前の事件】で仲間も政府もくそったれだと痛感したよ!! 他人のためと抜かすやつには反吐が出る!!!」


 凄まじい打ち合いの末、お互いの剣が粉々に砕け散る。

 細かな破片が飛び散る中、わたしはコンバットナイフを、ベルクートもダガーを取り出して戦闘は一瞬で再開された。


「10年前の事件も、その時の政府とやらもわたしは知らない! でもあなたのやり方は多くの人を不幸にする!! 罪の無い国民が大勢悲しんでしまう!!」

「かつて魔王軍に立ち向かえなかった腰抜け組織が国民だと? 笑わせるな騎士如きがッ!!」


 崩されたガードの間を縫って、ベルクートの打撃がわたしの腹部へ叩き込まれた。


「くはっ......」


 めり込んだ拳を中心に激痛が広がり、飲み込めなくなった唾液がこぼれ落ちる。

 勝ちを確信したベルクートが笑みを浮かべ、腕を引き抜こうとした瞬間だった。


「......なッ!?」


 わたしは痛打を与えたベルクートの右手をガッチリ掴むと、呼吸を整えながら顔を上げた。


「確かに勇者のしたことは......王国軍わたしたちが本来すべきだったことよ、でももう軍は無力じゃない! 国を! 誰かを! 守る力と意志がある!! こんな痛み――――」


 ベルクートの腕を引き寄せると、わたしは右の拳を血が出んばかりに握った。


「貰ってる給料の内なのよッ!!!」


 渾身の右ストレートをベルクートの顔面に叩きつけた。

 ふっ飛んだ勢いで民家へ直撃、バラバラと瓦礫が降り注いだ。


「はあッ! ......はあ」


 砂埃が晴れると、ベルクートがこちらを睨みつけていた。

 さすがにあれだけじゃ倒れないか......。

 口元を拭い、1歩前へ足を踏み出した時だった。


「えッ?」


 膝の力が抜け、思わずその場に手を付いてしまう。

 ダメージではない、ここに来てなんで――――


「はッ!『魔力切れ』のようだな、覚えたての魔法を撃ちすぎたツケというところだろう。惜しかったな」


 余裕を取り戻したベルクートが、白銀に輝くルナクリスタルを見せながら近づいてくる。


 そんな......あと少し、あと少しなのに。

 くそッ! くそッ! ここでルナクリスタルを奪わなきゃいけないのに! 

 動け!! 動け!! 動けッ!!!


 首にダガーが振り下ろされる、無念と後悔の念が頭を埋めた刹那、わたしの首を狙っていたダガーが宙を飛び、ベルクートの叫び声が耳を叩いた。


「があッ......!? なッッ!!?」


 目の前に転がってきたのは1個の瓦礫、腕を押さえているところからして投擲されたのだろう。


「ティナ!! 早く!!」


 聞き慣れた声はペアのもの、屋根上に上がったクロエが瓦礫を投げて掩護してくれたのだ。

 地面踏みつけ、痛みに悶えるベルクートへ距離を詰めた。


 魔導砲発射まで――――――――残り5分。


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