【異世界王国軍の日常】〜パーティーから追放された平凡少女は、王国軍に転職してレベル0から本気でやり直してやると決意したようです〜

tanidoori

第1話 冒険者から転職します!


「ここまでって......どういうことよッ!!!」


 王都から遠くない場所にある地下ダンジョン。

 その入り口、わたしは苦楽を共にしたはずのパーティーメンバーへ向かって喉を叩き潰すように叫んだ。


 ギルドに属し、モンスターの討伐や採取などの依頼クエストをこなして収入を得る職業、『冒険者』。

 この国の冒険者は、初級ダンジョンを攻略することで世間一般から一人前と認められる。


 冒険者になって半年、今まで雑用も囮も死ぬ気でこなしてきた。国でも名高い冒険者パーティーのメンバーとして、仲間の期待に答えるため。

 そして今日が......、今日がその記念の日となる筈だったのに。


「言った通りだティナ・クロムウェル。まだ12歳の上、クラスレベル20程度の下級冒険者にダンジョンへ挑む資格など無い」


 パーティーリーダーである剣士の男が、打ちひしがれるわたしへ冷酷に言い放った。


「あっはっはっは! ダンジョンに潜るなら最低でもレベルが40以上いるってリーダーに教えてもらわなかったの? 剣士レベル20の雑魚が入れるわけないじゃん! ねえアリア?」

「まあ、雑魚なりに使い勝手は良かったわ。ブランドに釣られたガキにはいい勉強になったんじゃないでしょうか」


 ヴィザード職の女冒険者と、魔法剣士職の少女冒険者から罵詈雑言ばりぞうごんが飛ぶ。

 2人は父親を亡くしてギルドに登録したばかりだったわたしを、パーティーへ誘ってくれた。


「だま......したの? じゃああの雑用は? 命がけの囮はなんだったのよ!? ダンジョンに連れてってくれるんじゃなかったの!?」


 曇天どんてんから雨が降り始める中、信じていた仲間を見つめる。

 彼らは言っていた「俺たちといれば経験値はたまる、安心しろと」。笑顔で......、わたしは信じてたのに。


「嘘なんてついてないさ、ダンジョンは目の前にあるだろ? 攻略したきゃ1人で行け」

「そんな......討伐はいつもあなたたちで、わたしはレベルなんて上げられてないのに――――」

「じゃあ帰りなよ、アイテム拾いしか取り柄のないお子ちゃまは、もうこのパーティーに不要だからさ」


 この人たち、最初から使い捨てるつもりで......身寄りの無くなったところにつけこんだの?

 夢が、目標が......踏みにじられていく。


「努力は必ず報われるだっけ? あんな大嘘信じてるんならホントおめでたいわね、搾取って言葉知ってるー?」


 ――――ッッ!!!

 わたしは腰の剣を抜いて、仲間だった敵へ斬り掛かった。

 こいつらを殺してわたしも死ぬ、その覚悟で渾身の一撃を浴びせようと駆けた――――。


◇◇


 考えればわかることだったのだ。

 レベル20のわたし1人で、ダンジョン攻略が可能と言われるクラスレベル40以上のパーティーに勝てるわけがないということを。


 戦闘は終始一方的だったことを覚えている......、気絶したわたしを放置してあいつらはダンジョンへ潜ったのかな。

 ははっ......、都合よく使われて、捨てられて、こんなところで死ぬんだ。


 仰向けに倒れるわたしの体温を、雨は容赦なく奪っていく。

 もうどうでもいい、いっそここで眠ろうかと思った矢先、森の中から聞き慣れぬ声が響いてきた。


「なに......?」


 声が近づいてくる、猛獣ではない、雄々しく野太いそれは人間のものだった。


「もっとペース上げろお!! てめえら死にてえのか!!」

「「「レンジャー!!!」」」


 レンジャー?

 首だけ向けて見た光景は、軍服を纏った男たちが重装備を背負って隊列を組んだもの。

 獣道を突っ切ってきた彼らは、この国の軍事機構......ストラスフィア王国軍だ。


 そして、その先頭に立つ女性とわたしは目が合った。


「ん? お主その怪我......。全隊停止せよ! 軍曹、衛生兵を呼べ!!」


 掛け声をしていた者とは違う若々しい女性の声、華奢きゃしゃな外見の王国軍女性騎士がこちらに歩み寄ってきた。


「おぬし、なぜこんなところで倒れとるんじゃ? もし話せるようならわしに言うてみい」


 妙な喋り方......、だけどわたしにとってはどうでもいい。

 話せと言うなら話そう、あいつらのした仕打ちを赤裸々に、最弱冒険者の末路を。


「――ははーん、それでこうなったわけか。それは悔しいのう」


 女性騎士はしゃがみ込み、わたしへ顔を近づけた。


「おぬしはここまでやられて悔しくないのかえ? 格上に利用され、殺される。このままそやつらの踏み台となって終わるつもりか?」

「どういう......こと?」


 徐々に薄れてきた意識を掴み、絞るように返答する。


「言うた通りじゃ、このまま最弱冒険者として終わるか、自らを磨き、お主の天命になるやもしれぬ道を進むか、自分で選んでみよ」


 意味わかんない......、わたしに軍へ入れってこと? 国民支持率が低い日陰者のなる職業じゃない。

 普通なら絶対断る、けれど。


「軍に入れば、強くなれるの......?」


 聞いてしまった。


「おぬし次第じゃ、少なくともレンジャーという特殊な訓練過程を終え、徽章きしょうなる精鋭認定バッチを取れれば、軍内でも一人前と認められるぞ」


 果てしないほどの誘惑、死にかけという極限状態だからだろうか。

 あるいは、夢も努力も踏みにじったあいつらを見返したい、ただその一心だったのかもしれない。


 砕かれた剣のグリップを握ってわたしは叫んでいた。


「強くなれるなら――――、わたしは王国軍に入りたいですッ! こんなところで......まだ死にたくない!!」


 変わりたい、変われなければそれは死んだも同じ。知らずに利用されるのは嫌だ、でも知った上でなら利用されようと構わない。得るべきものを得られるのなら。

 かすみゆく視界の奥で、女性騎士が笑った気がした。


「ようこそストラスフィア王国陸軍へ、歓迎するぞ。希望と可能性に満ちた少女よ」


◇◇


 ――――1年後 ストラスフィア王国首都アルテマ

 ここでは多くの人がギルドに入って冒険者となり、日々様々なクエストを受けて冒険にでかけている。


 いつか冒険者になって、そんな生活を送るんだと思っていた。

 そう、そんな時期がわたしにもありました......。


「本部、こちら小隊長。突入準備よし、送れ」


 晴れ渡る蒼空の下、わたしは魔導通信機にまだ未発達の声を流していた。


《こちら本部、1分後に正門から突入し対象の確保を行われよ。相手は闇ギルドだ、注意しろ、送れ》


 返ってくるのは飾り気のない男性騎士の声、了解と通信終わりを告げ、母親譲りであろうセミロングの金髪を肩から払った。


 ブレザーとプリーツスカートをなびかせ、ニーハイソックスで覆われた足を伸ばすと、黒光りした半長靴ブーツで地面を踏みつける。


 久しぶりに見る王都の景色は壮観で、木組みの家々と石畳によって造られた、王城の見下ろす美しい街並みには惚れ惚れする。


「30秒後に突入します、状況開始!」


 そんな王都の一角、わたしは去年まで属していた冒険者ギルドの前で、30人以上の騎士を率いて包囲していた。

 1個小隊が息を飲み、遂にその時を迎える。


「3、2、1......今ッ!!」


 ――――バァンッ――――!!!


 勢いよく扉を蹴り開け、一気にギルド内へ突入。

 一斉にこちらを向いた荒くれ者たちに大きく叫んだ。


「我々は『王国軍』です! 現在あなた方には闇ギルドの容疑が掛かっています!! 全員その場で手を上げてください!!」


 わたしたちは今、王国の法に反した闇ギルドの根城へ殴り込んでいた。

 当然1人じゃない、30人以上の屈強な騎士が次々となだれ込む。

 自分のいたギルドを取り締まるなんて、人生わからないことだらけだ。


「王国軍だと? 魔法も使えねえ騎士如きが笑わせやがる!」

「最低職の落ちこぼれめ!」


 屈強そうな男たちが怒声を張っていた。


「っだそうです、ティナ・クロムウェル小隊長。いかがしますか?」

「我々の任務は彼らの捕縛です。好きに言わせときましょう」


 あんな言葉で頭に血が上る人もここにはいない。


「大人しくすれば危害は加えません、ですから、任意同行をねがい――――」


 言い終わる前、頭上から降ったのは炎属性魔法がエンチャントされた魔剣。すかさず抜いた王国軍正式採用短剣で、わたしはそれをとりあえず受け止めた。


「そんなッ!?」


 不意打ちを防がれて動揺したのか声が聞こえる。

 火花の弾け飛ぶ中攻撃してきた人を見れば、1年前からよく見知ったパーティーの少女だった。


「久しぶりね"アリア"、リーダーたちは元気?」

「お前ッ!? 去年いた雑魚剣士!? なんであんたが王国軍に!」


 1年前から変わったのはレベルだけか。

 体勢を立て直した彼女は、業火と踊るようにわたしへ剣を向けた。


 軽快な身のこなしと炎を纏った武器、さしずめジョブは【上級魔法剣士】ってところか。それもレベル50以上、わたしをパーティーから追い出した時よりもさらに強くなっている。


 だけど――――


「なんで当たらないのッ! って、えっ!?」


 手首を弾いてふところへ肉薄、アリアの無防備なスカートを、闇ギルド員や騎士の面前で思い切りひるがえしてやる。


「ひゃあぁっっ!?」


 お目見えしたのは薄桃色の可愛らしいタイプのやつ。

 条件反射的に彼女はスカートの裾を押さえた。同時に、嵐のような攻撃も止む。

 あとはこのまま――――。


「痛っ!?」


 ちょっとこかしてから魔剣を蹴りとばす。

 近接特化の高レベル冒険者(女の子限定だけど)を、最小の攻撃で無力化できるとても人道的な戦法だ。


 チラリと床へ目を向ければ、仰向けに倒れたアリアが涙目で歯を食いしばっていた。

 一応専守防衛だったし......、仕事だからしょうがないと自分に言い聞かせてから、わたしは残りの闇ギルド員へ声を飛ばす。


「抵抗は無駄ですよ、ただちに武装解除してください」

「ふざけるな! この外道集団共!! 30年前の大戦でなにもできなかった役立たずめ!!」


 だてに闇ギルドじゃないか、予想通りの反応にため息を吐きながら剣を構え直した。それは攻撃開始の合図。


「王国騎士法81条、公務執行妨害の現行犯で強制連行します。検挙ッ!!!」


 王国軍騎士が一斉に飛び出す、並行して側面の窓を割って別の部隊も侵入。わたしの古巣、闇ギルドの制圧が開始された。


 ――――これは、冒険者を辞めて騎士となったわたしの非日常な日常。13歳が送るオーバーワークな王国軍ライフです。


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