第44話 大嫌いだけど、愛してる
翌朝、いつものように目覚ましがなる。
=== ピ・ピ・ピー ===
「うーん。まだ眠いな〜 」
目覚まし時計を止めようと手を伸ばすと、背中に人の気配を感じる。振り向くと、そこにはトリスタンが横たわっていた。
うそ!! これは悪夢だ。
アンソニーだと思ってトリスタンと朝まで過ごしてしまった。
「ちょっと……なんであんたがここにいるの……よ」
目を覚ましたトリスタンは、その声をかき消すように、私の両手首を
「お前……抱かれたかったんだろ」
「……」
言葉をなくして呆然としている私をよそに、シャツを着て、身支度を終えると、無言で部屋から出て行った。
このドキドキは、なぜだろう?
トリスタンの肌のぬくもりが……まだ体に残ってる。
慌ててシャワーへ駆け込み、熱いシャワーで頭を冷やす。
◇ ◆ ◇
厩舎でいつものように馬たちの世話をしていると、カレンがまだ濡れている髪を後ろに束ねて、駆け足でやってくる。
少しおどおどした様子で駆け寄ってくるカレンにブラシを投げ渡す。カレンは無言でブラシを受け取り、白い馬にブラシを始める。
酔っていたカレンは、おそらく昨日のことなど、よく覚えていないのだろう。誰かの名前を呼んで、眠り込んだお前を襲うほど、俺は女に不自由していない。「行かないで……」とお前は言った。そいつはお前のことを大切にしていないのか? 俺は、そいつに似ているだけの存在なのか?
俺は、誰かの身代わりとしてではなく……
俺だけを見ているお前を抱きたい。
「あの……トリスタン。
「お前、よかったぜ」
うわっ。やっぱり、しでかしちゃったんだ。どうしよう……。
「誰にも知られたくないなら、内緒にしてやるぜ。でも、後悔してるなんて言うなよな」
「あっ……。ありがとう」
私……後悔してるのかな? いや、ちょっと後悔してるような……トリスタンにときめいてるような……。
自分のことなのに……自分自身が一番わからない。
「おい、馬に乗るぞ」
「あっ、はい!」
二人は馬に
モヤモヤした気持ちの時は、馬を走らせるにかぎるな。馬に乗って走っていると全てのことが、リセットされるような気がする。無言で馬を走らせ、フッシャータワーまで来た所で休憩をする。
何を話してよいのかわからずに、無言でいると……
「お前、そいつのこと忘れて、俺と付き合わないか? 」
「えっ? 」
「俺ならお前を泣かせたりしないぜ」
やだっ。トリスタンにときめいちゃうよ。
「お前、誰かとつきあってるんだろ。そいつは俺に似てるのか?」
トリスタンの真剣な告白に答えるには、正直に答えるしかない。
「私、アンソニー・モロゾフとおつきあいしているの。でも……彼はわたし以外の女性とメイクラブしていて、そのとき……二人のベッドシーンを見てしまったの」
「……アンソニー・モロゾフ ?」
「そう、IT企業を経営しているアンソニーよ」
トリスタンは、私の左手を握り、驚き振り向いた私を抱き寄せると力いっぱいに抱きしめた。彼の右手で顎をクイっと持ち上げられ、優しく、唇にキスを落とす。唇が触れ合うと、唇が舌でこじ開けられ激しいキスに変わっていく。
「……ト・リスタン」
「アンソニーなんかにお前を渡さない!!」
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