第14話
「もうやめてよぉ!!」
叫び静寂を遮ったのは誠であった。その場に泣きながら崩れ落ちた。
「……もういいでしょ」
「はぁ?なんだあのガキ二号は?王子様のボーイフレンドかい?へへ」
啓太から退き、誠の元へと足を進めるシロエ。そして目の前で泣き崩れる少女の髪を握り締め引き摺る。
その光景を啓太は遠のく意識の中ぼんやりと見ていた。そしてうっすらと見えるリーアの姿に視線を向ける。
リーアは血だまりの中変わらず力なくその場に伏していた。周りの民衆はすっかりシロエに恐れをなし寄ってすら来ない。
(さっきまでリーア!リーア!って皆寄ってきていたのに……どうして)
皆がこの状況に対して感じている畏怖により動けずにいるのは分かる。無論啓太も同じ弱い存在であるからだ。故に強者に脅える弱者の気持ちは理解できる。
(それでも……どうして)
頭では理解している。それでも諦めきれない自身がいる。けれど体は動かない。自らの肉体の芯から覚めていくのを感じる。その冷たさがあらわすのは死だということも理解できる。
虚ろな視界に写るのは髪を掴まれ弄ばれるまことの姿、そして何も出来ないことに対して民衆達の恐怖が取り巻く。その中心に居るのは長耳の悪魔だ。
そしてそれを黙って眺めている自身。亜人達の失念の想いが力なく横たわる啓太に寄せられている事は明白であり、自身の力不足を嘆く事すらない。悔しいとか、悲しいとかそういう感情は一切が無かった。
彼の中に渦巻いていたのは失望であった。自身の運命に対しての。そして自らを取り巻く世界に対しての。
(なんで僕はこんな目にあってるのだろう。腕をちぎられ、家族を失い、へんてこなとこにつれてこられて、はらわたぶちまけて、大切なものを奪われる。これ……夢、なのかな。そうだよこんなの夢に違いがないんだ。夢だ。そうだよそうでなきゃこんな凄惨な事がこんな連続して起こるはず無い。そうだ、そうだ。ならば醒めるのを待とう……そうだ待とう)
そしてゆっくりと目の前の凄惨な現実から逃げるように彼は目を閉じた。今までのこと全てを無かった事にするために。死にかけのリーアも、目の前でなぶられる誠も、肉解になった母も姉も。醒めれば皆元通りになっている。いつもの朝がきて母に優しく起こされて、朝食を食べながらTVを見て、過保護な母に見送られながら学校へ行き、歌那多と他愛ないおしゃべりをして、剛達に脅えつつも楽しい学校生活を送り、いつもどおり帰路につく、そんな日常へ戻るために。そして遠のく意識の中一言小さく呟いた。
「……おやすみなさい」
そして彼は目を覚まさなかった。代わりに目を覚ましたのは〝怪物〟だった。
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