第2話「最悪の休日」

空が暗くなりつつある住宅路を二人の少女が歩いている。



「ねぇ知ってる?鉄血仮面てのが最近いるんだってー。」


「鉄拳仮面?」


「違う違う。鉄血仮面。」


「新しい特撮?」


「いや、現実に存在するんだよ。凶悪な犯罪者に襲われている人々を助けるんだって。」


「えー?そんなのがいたら普通ニュースになるっしょ?」


「それが、犯罪者に襲われて、鉄血仮面に助けられた少数の人しか目撃していないらしいの。そして犯罪者を倒した後には颯爽と消える。」


「はいはい。本当に正義のヒーローがいたらこの世からとっくに犯罪は無くなってるから。ほら、梨沙。家に着いたよ。じゃね。」


「うん……。ばいばい美樹、また明日ね。」


「うん。」


二人の少女はそこで別れた。


「………ただいまー。」


彼女の名は梨沙。どこにでも居る普通の女子高生。本当に何も無い、特殊能力も超頭脳でもない、美少女でもない普通の女子高生。


彼女は家に着くなりすぐさま二階へ上がり制服のままベッドへ倒れる。


「はぁ……なんか面白いこと起きないかなー。」


溜息を漏らしながらスマホをいじり始める。特に誰かとSNSでやり取りするわけではなく、ただただどうでもいい動画を漁っている。


「あ、鉄血仮面についてだれかツイートしてないかなー……。」


「あー。噂が流れてるだけで目撃証言とかはな……い……か。」



「あーつまんない!こんな高校生活私が望んでいた青春じゃなーい!」


ベッドの上で足をじたばたしながら、声が広がらないように枕に顔を埋めながら叫ぶ。


「部活もめんどくさいしなぁ……。勉強も嫌い……。」



「梨沙ー。ちょっと来てー。」


下階から母の呼ぶ声が聞こえる。


「んー?なにー?」


ドタドタドタ


「どうしたのー?」


「ちょっと見てよこれ。これあなたの学校の近くじゃない?」


母はテレビ番組でやっているニュースを梨沙に見せる。


「あ、そうだね。近くにある公園だ。ってあの公園で殺人事件?え、こっわ。しかもまだ犯人は捕まってないって。」


「ちょっと。他人事じゃないわよ。あなたの学校のすぐそばでこんな事が起きたのよ?もしかしたら明日は学校休みになるかも……。」


「え、本当に!?」


「こら、喜ばないの。まぁ、明日の朝にはPTAからメールが届くとは思うわ。」


「明日休みになったら何しようかなー?美樹と一緒に何か―。」


「休みになるなら自宅待機に決まっているじゃない。」


「えーーー?」


「当たり前でしょ。近くにまだ殺人犯が潜んでいるかもしれないのよ?」


「そんなー。」


「そんなことより、折角降りてきたんだからちょっと早いけどもうご飯食べちゃいましょ。」


「はーい。」



梨沙は夕食を食べ終わり、再び二階の自室でまたスマホをいじっていた。


「はー……。休みなのはいいけど、暇なんだよなー。なんか熱中出来ることないかなー。」


「あ、美樹が何か動画をツイートしてる。無題……?」


動画を再生する。



「? 何か美樹がヤバイヤバイ言いながら窓の外撮ってる……。なんか面白いことでも起きるのかな?


うわ、この歩いてる人でっかー。外国人かな?筋肉モリモリだし。


ただこの外国人が歩いてるだけ?ヤバイヤバイ言うこと?顔もかっこよくな……


!?


え、なにあの顔……。特殊メイク?映画に出てくるモンスターみたい……。


ハロウィンでもないし、コスプレ?コスプレしてる人見つけて美樹はヤバイヤバイ言ってるの?うーん。まだ10秒くらいあるけどもういっか。つまんない。」



「美樹にLINEしよ。さっきの動画はなんだったのか。」


『 さっきのやつ何ー?』


ピコン


『 きい』



「きい?きいって何だろ?打ち間違いかな?」


『 きいって何?笑』



「あれ?既読は付いてるのに……?」


数分待っても美樹からの返信はない。


「寝ちゃったかな?まだ10時だけど……。」


「……やることもないし、私ももう寝ちゃおうかな。最近夜更かし気味だったし。明日が休みになることを願って、おやすみー。」


電気を消す。



ピコン




「……沙!梨沙!起きて!!!」


母が起こす声がする。


「ん……?嘘……遅刻?やっぱり今日は学校あるの……?」


時計を見ると9時。この時間まで寝ていたということは学校はなかったのだろう。むしろ寝すぎだ。


「あ……今日学校なかったんだ。。」


「梨沙!起きてって!!大変なのよ!!!」


「もーなにー?」


ドタドタドタ


「見てこのニュース!これって美樹ちゃんじゃない!?」


「え、美樹?美樹がどうし――。」


梨沙はニュースでやっている内容を見た瞬間、言葉を失い、手に持っていたスマホを床に落とした。嫌な音がした。恐らく画面が割れてしまっただろう。だがそんなこと全く気にならない。暫く頭が理解できなかった。目の前が真っ白になり、何も考えることができない。


母がテレビのチャンネルを変え、他のニュース番組に切り替えてみる。


「とても悲惨なニュースが飛び込んで来てしまいました。これは……なんという……。○○県△△市に住んでいた女子高生の高田美樹さん(17)が何者かによって誘拐されていました。」


「えっ…………?」



ニュースの内容はこうだ。

昨晩、美樹の部屋からガラスの割れた音がし、母親が見に行ったらそこに美樹の姿はなく。散らばったガラスの破片が部屋の中にあるだけだった。

その後家周辺を捜索したが美樹は見つからず、警察に捜索願いを出した。失踪してから12時間が経過したが未だに何も進展しないとのこと。


「美樹……!」


梨沙は我に帰った後、スマホが割れていることを全く意に介さず、SNSをチェックする。案の定クラスのグループLINEが騒然としている。最初は休みのことを歓喜する内容だったが、美樹がニュースに出た時間から話題はその事だけに。クラスの皆がグループに参加してる美樹に呼びかけるが全く反応はない。


『これって美樹だよね!? 』

『 美樹ちゃん!返事して!』

『美樹さん!!! 』

『 高田!!』


皆慌てているようだ。そしてその中に

『 梨沙は何か知ってる?』

という言葉があったので返信する。


『 ごめん。分からない。一緒に帰ったけど……。』


ピコン


『 そっか……。』


ピコン


『 ちょっとこれ見て!!!』


とある動画がルームにあげられた。


『 なにこれ?』

『 昨日、美樹がツイートしてた動画。』


昨日、美樹が無題であげてた動画だ。


『 えっ……。』

『 こわ。』

『 もしかして犯人?』


何やらざわめいている。


「え?犯人?昨日の動画に何かあったかな……?」


梨沙もその動画は昨日見たが、最後まで見ていなかったので、再び最後まで見ることにした。


「……やっぱり大きい外国人が歩いてるだけ……。あ、こっから見てないや。ん?こっちに気がついた……?え?立ち止まってカメラの方見てる? ……終わった。」


梨沙が昨日見てない部分は、歩いていた男が撮影していた美樹の存在に気づいたという内容だった。


ピコン

『え、何この顔?メイク?ヤバくね? 』

『 ヤバい』

『 美樹の方見てたよね?』

『 美樹を誘拐したのってこいつじゃないの?』

『 でも、何で?』

『勝手に撮ってたからじゃない? 』

『 美樹の部屋にはガラスが散らばってたってことは外から入られったってことだ。』

『じゃあ、やっぱりこいつが侵入して……? 』

『 でも見るからに美樹の部屋二階だよ?』

『 だってそれしかなくない?』


怒涛のコメントがクラス中から流れ出る。



重くなったため梨沙は一旦、LINEを閉じた。そしてその時、あまりの通知の量で確認出来なかったが、よく見たら美樹から一件のLINEが来ていることに気がついた。


「美樹!!!」


梨沙は飛びつくようにそれを見た。


『 どうがをよこせなんのどつがだ』


あったのはそれだけだ。そのLINEが来てたのは梨沙が寝てからすぐの時間だった。


「え?動画……?それに……。」


それは明らかに美樹の言葉遣いではない。梨沙は1つの動画が思い浮かぶ。それはやはり昨日ツイートした動画だ。梨沙は返信をせずにそのLINEの画面をスクリーショットした。


「これ……。クラスのLINEに上げるべきかな……。」


悩んでいると


ピコン


美樹からたった今新たなLINEがきた。


『 いえみたのだろう』


どうやら既読がついたことを確認して送って来たのだろう。


「え?え??」


ピコン


また新たなLINE。

『 けいさつにいつたらこいつをころす』


「殺すって……。やっぱり犯人の……。」


梨沙はLINEで返信しているのが美樹を誘拐した犯人だと確信した。そして


「殺すってことは……まだ美樹は生きてるの?そうだよ、ね。生きてるんだよね……!?」


取り敢えず美樹がまだ生きていることを確認し、取り敢えずほっと胸を撫で下ろす。

しかし、何も良いことはない。


「警察に言ったら美樹が殺される……。クラスの皆や、お母さんに言ってももしかしたら警察に連絡されてしまうかもしれない。てことは……私しか知り得ない……。私しか……。」


梨沙は暫く頭を抱えた後、顔をあげる。


「美樹…………。」


「私が……、私が美樹を助けるんだ……!」




梨沙の孤独な戦いが始まる。

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