第22話 vs 複雑系彼氏持ち
「あー、つんつん」
「あれ?珍しいね」
出席番号36番、
「どうしたの?」
「宿題やってなくてさ、居残り」
学校嫌い、っていったら語弊があるか、友達付き合いは好きみたいだし。勉強嫌いな子で、学校が終わったからやっと今日一日が始まるよ、みたいなことを良く言っている。放課後になったらいつもダッシュで教室から逃げるように出て行くから、真面目に椅子に座っている槍さんを見て珍しいな、って思ったというわけ。
「宿題、って・・・。今日何かあったっけ?」
「違う、違う。今日のじゃなくて、一年のときの夏休みの宿題」
「遅っ!!」
もうだいぶ過ぎてるけど!?
「あーしとしてはこのまま出さないで済ませようと思ってたんだけど、担任に今からでもいいからちゃんと終わらせなさいって言われちゃってさー。ちょー面倒って感じなんだよね」
「・・・ていうか逆に今まで許容されてたわけ?」
みんなが必死で終わらせてる、っていうのに・・・。やっぱこういうのはキャラだよね。手がかかる子ほどかわいいというか・・・。槍さんだったら仕方ないか、みたいに先生も思っちゃうのかな。
「あ、そうだ!つんつん、あーしのこと監督してくんない?」
「監督ぅ?」
「ほら、あーしって基本的に人に見られていないと興奮できない・・・じゃなかった、集中できないタイプだからさ」
「さりげなく性癖を暴露しないでくれる?」
どう間違えたら集中が興奮になるかな・・・。
「隣にいてくれるだけでいいから!それだけで全然違うから!」
「まぁいいけど・・・」
どうせ暇だし。
「よし、これで今までの1・5倍捗るね!」
「ほんのちょっとだけなのね・・・」
そこは誇張してでも10倍とか言っとけばいいのに。
「しっかりやってよ?私に話しかけたりしないでよね」
「うん、任せておきなって」
そう言って槍さんは机に向かう。夏休みの宿題を今日までキープって・・・。勉強嫌いっていうか良い度胸してるよ。この子、進学とかどうするつもりなんだろ。
「あ、そう言えばさ、聞いてよ、つんつん」
「舌の根びしょびしょだよ!!」
「へ?」
「私と話すな、って言ったばかりでしょうが・・・。まだ三分もたってないよ?」
集中力切れるの早すぎ。カップラーメンもできないけど。
「これだけだから!この話したらもう本気でやるから!」
・・・はぁ、一切信用できないけど・・・。
「これだけだからね?」
こんなんじゃ、夏休みの宿題を終わらせるのにどれだけかかることか・・・。
「ほら、あーしってカレシいんじゃん?」
「うん、前言ってたね」
多分、いても言わない人もいるんだろうけど、私が知る限りで、ウチのクラスで彼氏がいるのは槍さんだけ。
「ちょっち、そのカレシのことで相談があってさ」
「相談って、恋愛相談ってこと?私、全然経験無いよ?」
「へーきへーき!聞いてくれるだけでもいいから」
「あっそう、ならいいけど」
「それがさ、最近、カレシが浮気しないの!」
「うわー、それきつい・・・ん?ごめん、もう一回言ってくれない?」
聞き間違いかな・・・。
「だからね!最近、全然カレシが浮気してくんないんだよ!」
「いや、結構なことじゃん!!」
なにその悩み!!彼氏が浮気したから大変だよ、っていう相談だと思ったのに、その真逆!?
「円満ってことでしょ?全然問題ないじゃん!」
「だってさ!あーしのカレシって、かっこいいし優しいし性格良いしテクニシャンだし・・・。とにかく男としてものすんごい魅力あってさ!」
・・・最後のテクニシャンがどういう意味なのかは聞かないようにしよう・・・。
「絶対女から見たら付き合いたい!って思うに決まってんの!カレシはカレシで、自慢の男性フェロモンをあーし以外の女にもぶつけたいって思ってるはずなの!つまり、浮気が起こるのは自然の摂理なんだよ!」
「・・・浮気を摂理にしないで。っていうかどういうこと?槍さん的には彼氏さんに浮気してもらって別れたいってこと?」
「違うよ!あーしは結婚を前提にカレシと付き合ってるし、別れるなんてありえないって!」
「じゃあ、何が言いたいわけ・・・?」
全然分からないし。
「だからさ!もし女があーしのカレシに寄ってきたら、そいつを屈服させて歪んだ顔を見たいんだよ!」
「いや、怖いわぁぁぁあああ!!なにその欲求!!一番歪んでるの、槍さんの性欲でしょうが!!」
「逆にカレシが他の女になびいたら、『お前の方が良かった』って言ってほしいわけ!ほら、やっぱり女の子としたらさ、カレシの一番でありたいじゃん?」
「浮気が嫌だと思う人は大勢いるだろうけど、浮気願望を持つ人は私初めて見たよ・・・。これって要するに、彼氏との仲は一つ二つの浮気じゃ崩れないほどラブラブだって言いたいわけ?」
「ラ、ラブラブって・・・。ま、まぁね、そうとも言うね」
ぽっと頬を赤くして嬉しそうに照れる。今更、純ぶられても猛烈に困るんだけど。
「でも不倫って悪いことじゃないよね?」
「いや、駄目でしょ・・・」
浮気、不倫ネタがどれだけワイドショーを騒がせていることか・・・。
「よく考えてみてよ。不倫したって、その先で一つの命は生まれて、幸せな家庭を築くことだってあるんだよ?」
「そりゃそうかもしれないけど・・・」
「あーしが生まれたのも、パパとママがダブル不倫したおかげだし!」
「・・・」
絶句した私だった。
「・・・話、終わりね・・・。宿題、しなよ・・・。私、いてあげるから・・・」
「あ、そだね。ちゃっちゃと済ませないと」
・・・そういえば、私、お父さんとお母さんのなれ初め、詳しく聞いたことないなぁ・・・。今日、家に帰ったら・・・。いや、知らないことがいいことも、この世にはあるよね・・・。
to be continued...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます