第2話
何となくよそよそしくなってきたのです。
そして姉は、父親が時々自分の身体を舐め回すような邪な目付きで見つめている事を感じていました。
弟はそんな両親を不思議に思っていましたが、ある夜二人のひそひそ話を立ち聞きしてしまいました。
「お前さんそうは言っても婆様が『自分達の子と思って育てろ』と言っとったじゃろが」
「あの頃とはわけが違う。わしんとこは、今じゃもう押しも押されもせん立派な庄屋じゃ。もうすぐあいつも嫁に出さないかんわい。わしらの娘のままじゃそれ相当の家に嫁がせんとならん。じゃがあいつはどこの誰ともわからん瞽女の娘じゃぞ。嫁がせてからそんなことが先方に知れてみぃ。何を言われるかわかったもんじゃないわい。」
「そんなこと言うても、今さら下働きの娘として扱うのは可愛そうじゃろが」
「なんの、嫁いでから先方に苛められる方が可愛そうじゃわい。あの娘も死んだ婆様からその事は聞いて知っとるんじゃから、よくせき言い聞かせれば、納得するじゃろうて。」
弟は両親の話を聞いて愕然としました。
そして、それ以上はとても聞いていられずに、その場
を離れ自分の部屋に戻りました。
あのお姉ちゃんが、わしの本当のお姉ちゃんではな
かったとは……
弟は考え込みました。
あの美しいお姉ちゃんなら、嫁の貰い手はいくらでも
おるじゃろう。
気立ても良いお姉ちゃんじゃもんな。
弟は、小さい時から姉といつも一緒に遊んだ事を振り返り、今でこそ一緒には遊ばなくなったものの、美しい姉いつもを眩しい思いで見ていた事を思いました。
嫌じゃ、お姉ちゃんは誰にも渡しとうはない。立派な家に嫁いで幸せになるならまだしも、苦労させるようなことは出来ん。
弟は矢も立ても堪らずに、姉の部屋に行きました。
「姉ちゃん、起きとるかえ?」
「なんじゃえ、こんな時間に……起きとるわえ」
姉は、思いつめた顔をしている弟に驚きながらも、部
屋の中へ入れました。
「姉ちゃん……姉ちゃんはお父とおっ母の、本当の娘じゃないのを知っとったんか?」
「お前、それを誰から聞いた?」
弟はお父とおっ母の話を立ち聞きした事を言い、どん
な話をしていたかを姉に言った。
「姉ちゃん、どうするんじゃ?このままじゃと下女として扱われてしまうぞ。」
「仕方がない。婆様はもうおらんし、お父とおっ母の
言うとおりにするしかないじゃろ……」
「嫌じゃ。わしゃ嫌じゃ。姉ちゃん、わし……姉ちゃんが好きじゃ。ずっと好きじゃった。他の男になんぞやれん。姉ちゃん、わしと一緒になってくれ」
「お前……そりゃ本気かえ?」
「あぁ、本気じゃ。ずっと姉ちゃんやからと我慢しとったが、血がつながっとらんのならもうなんも気にせ
ん。な、一緒になってくれ。姉ちゃんはわしが嫌いか
?」
姉は顔を手でおおって泣いた。
「私も、お前が好きじゃった。婆様から、本当の娘じ
ゃないと聞いてから、ずっとお前の事が気にかかっとった。でも、私からは、よう言えんじゃった。お前は、私を本当の姉と思うておったもんなぁ。何度も、お前に打ち明けようとも思うた。じゃがお前が私の事を何とも思ってなかったら迷惑じゃろう思うて言えなんだ」
「姉ちゃん・・・・」
「私は嬉しい。お前も私を好いてくれとると分かって嬉しい」
「姉ちゃん、一緒になろう。な?わしゃ、お父ぅに言
う。姉ちゃんを、嫁にするとお父ぅに言うだ。」
「お父ぅが、許さんと言うたらどうするかえ?」
「その時はわしにも考えがある。姉ちゃん、わしゃどんなことになっても姉ちゃんを守る。ついてきてくれるか?」
「あぁ、どうせ苦労するなら、お前と一緒に苦労する
方がええだ。お前について行く」
「姉ちゃん、よう言うてくれた。」
二人はその夜、結ばれました。
そして弟は、しばらくお父ぅの様子を見ていました。
お父ぅの気持ちが固まってしまう前の、機嫌の良い時
を見計らっていましたが、中々その機会がありませんでした。
しかしある日、とうとうお父ぅに切り出しました。
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