第6話 続サヨナラ前髪、コンニチハ頭皮
大学を辞める際も一悶着があった。
両親がなぜ辞めるのか、なぜ大学に行かないのかと問い詰めてきたのだ。
聞きたくなる気持ちもわかる。200万円以上の学費を支払っている。しかも、留年して一年分の費用を払った後に、息子が大学辞めるなどと言い始めたら、原因くらい聞く権利はあるだろう。
僕は洗いざらい話した。髪の毛がなくっていること、それによって大学で笑いの的になっていること、それに耐えることができないこと。
両親は僕の話を聞き納得してくれた。母親は涙ながらにこう言った。
「やっぱり気にしていたんだね…」
心臓を串刺しにされるような言葉だった。
親も心配するほどハゲであると証明された。大学行かない理由を親もわかってて聞いたのかと。何も聞かずにいて欲しかった。
ともかく大学は辞めたがここからが地獄だった。
ハゲているので人と会えない。
髪を増やすためには、育毛剤が欲しい。
育毛剤はお金がかかる。
お金を稼ぐためにはバイトをしないといけない。
バイトするためには人と会わなくてはならない。ハゲているから人と会えない…
負のスパイラルだ。
何とか頭を見せないバイトはないかと情報誌をめくっていた。
帽子をかぶるバイトなら何とかなるかもしれない。色々検討して選んだバイトは某大手チェーンの弁当屋だった。
仕事内容は、キッチンで弁当を作ること。
何よりも心強かったのは、求人雑誌に写真付きで、作業員が帽子をしっかり被っていることだった。
(これならやれるかもしれない。食品関係なら帽子を被るなとは言われない。むしろ衛生上被っている方が褒められるくらいなはず…)
この弁当屋にしよう!
そう思ってからもまた障害があった。
履歴書の写真がいるのだ。頭だけフレームから出すのはダメだろう。
何をやるにしても心がダメージを負う世の中だ。
本当にハゲは辛い。。
よくよく考えると、面接の時も帽子をかぶるわけにはいかないだろう。
せっかく希望が見えてきたのに、絶望感が押し寄せてくる。
ハゲていない人にはこの気持ちはわからないだろう。例えるなら、女性なら恐ろしく汚い乳首を人前で晒さないといけないと思えば、似たり寄ったりな感じだと思う。
ともかく死にたくなるレベルなのだ。
正直、自分なら乳首出す方がマシだった。
パンツを脱いで、ヘリコプターのプロペラよろしく、アレをブンブン振り回せば帽子をかぶっていていいって言われれば喜んでやる。
それくらい頭を出すのは精神的に辛いのだ。
ともかく、面接でブンブン振り回しても無意味なのはわかっている。
出すしかない、頭皮を。
写真にせよ、面接にせよ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます