終章 ある少女の手記

「ねえねえ、お母さん。それで、そのお姫様と騎士さんはどうなったの?」


「この物語にはね、まだ続きがあるのよ」


 幼い少女が母親に問いかければ母親は、そう返した。幼い少女は、瞳の奥に好奇心を孕ませて母親を見つめる。けれど、母親はどこか困ったように微笑んだ。


「教えて! お姫様と騎士さん、どうなったの?」


「それは……また今度ね」


「ええー! 気になるよ。お母さん、教えて」


 駄々をこねる少女に母親は、柔らかく微笑んで人差し指を立てる。


「ゼノビアがいい子にしていたらね」


「うん、いい子にしてる!」


 ゼノビアと呼ばれた少女が満面の笑みを浮かべて答えれば、母親はにっこりと微笑んだ。その時、扉が開いて父親が入ってきた。


「ただいまー」


「あ、お父さん!」


 ゼノビアは父親に突進するように抱きついた。


「ゼノビア、お母さんから“お話”を聞いていたのか?」


「うん、そうなの! 続きが気になるのにお母さんがまた今度って」


「そうか、じゃあ今度はお父さんから話そうかなー」


「ホント!?」


「もう、あなたったら」


「いいじゃないか。たまには俺から話しても」


「いいけれど。あまり、変なこと話さないでね」


「話さない、話さない。ねえ、ゼノビア。お父さんは変なこと言ったことないもんな」


「うん! お父さんから聞くのも好き!」


「そうか、そうか。ゼノビアはかわいいなあ」


 そう言って父親はゼノビアを抱き上げた。ゼノビアは満面の笑みを浮かべてはしゃいでいた。


「それにお父さんも大好き! 強くてかっこいいお父さんが大好き!」


「ありがとう、ゼノビア。明日もお仕事、頑張れる気がするよ」


 母親は二人の様子を眺めてにっこりと微笑む。すると、父親が母親の方を見て「こっちへ来て」と言った。母親が父親に近寄るとぎゅと抱きしめる。


「あ、あなた……」


「いつも、ありがとう。俺には二人がいないとお仕事頑張れないから」


「もう」


 頬を赤く染めて母親は、自分の夫にそう呟いていた。夫は自分の妻と娘を愛おしそうに見つめる。


「やっぱり、家が一番いいな。なあ、ゼノビア。物語の続き、気になるか……?」


 ゆっくりと父親は、娘に物語を聞かせ始めた。

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