第15話
【メッセンジャーチャット内】
〔そういえばニクって何きっかけだったの?〕
〔広島の検索きっかけかな? その時たまたまウーロンが居て年も近かったから〕
〔3人同じ時期くらいだもんね。ニクの家からウーロン近いし〕
〔俺、最初さ~マシンガンって知識だけの釣マニアだと思ってたw〕
〔おい www〕
【ウーロンさんがログインしました】
〔こんチャオチャオ〕
……めんどくさいが姫様のご登場だ……
〔コンチャおっぱい〕
〔よっしゃ引継ぎ終了~明日早いから俺もう寝るわ〕
〔ニクが呼んだのかw お休み~〕
〔オヤスミンクル〕
【ニクさんがログアウトしました】
〔口説いてる割にあっさりだな。やっぱ二人きりにならないと口説かないの?〕
〔まあね〕
〔余りしつこいようなら俺が言ってやろうか? 写真も見せてないんだろ?〕
〔そだよ。写真見せたのはマシンガンだけだから、ニクに見せたりしないでよ〕
〔もちのロン!出会い系じゃないんだし、しつこいのはマナー違反だよな〕
……あんたはどうなのさ?……
〔同い年だし。他から言われるよりいいだろうからなんかあったら俺が言うよ〕
……ちょっ!あんた22歳でしょ……
【岩ちゃんさんがログインしました】
〔わw いきなり繋ぐなw〕
〔なによ二人で喋ってたの? 立ち上がってんのにおかしいと思った。何?
……やっと来たかおっさん。暇じゃったぞ……
〔違うよw ニクの事、どうしようかって話してたんだw〕
〔大丈夫~そんなたいした事ないんだからw〕
〔んじゃ岩ちゃんにはご馳走になってるから、二人っきりにしてあげるね~〕
〔ってw おめー眠いだけだろw〕
〔マシンガン、もうダウン?〕
〔正解!明日早いんで限界っす。ではのん~二人とも〕
【マシンガンさんがログアウトしました】
〔なんだw勝手なやつだな。マシンガンw〕
〔ねえねえ岩ちゃん〕
〔ほいほい、なんじゃね? ウーロン〕
〔親友がレズかもしれない〕
勲は、煙草を吹かしながらクスッと笑ってしまった。
イベント事が好きなのかも知れない、ウーロンは……。
不倫、アナルセックス……で、今度はレズビアン。
メッセンジャーで繋いだ仲間も翌日の仕事があるので、深夜は、いつも二人きりになる。若いとは言え、普通のOLならそんな生活は続かないと考えればわかる。戸高の言う40歳のおっさんだとは思わないが、恐らく普通の生活はしていないだろう。
もしかしたら、引きこもりと言う奴か……。
日課となった深夜の会話は、日常の些細な出来事から深刻な話題まで多岐にわたる。波長が合うのか、会話は楽しいし、遅番のパートの勲に、夜は暇で長い。
普通の会話を積み重ねる中、だが不意に、彼女は特殊な話を持ち出してくる。
それは、退屈させてはいけないとの彼女なりの気遣いなのかもしれない。
勲はそれを、別に不快だとも思わなかった。
神奈川に住む10歳も若い女性に下心があるわけもなし、自分はできる限り本当のことを話すよう心掛けている。それは性格が真面目だからではなく、その方が楽になれるから。
人によっては別人になりきり発散することもあるのだろうが、勲はその逆だった。
事実、戸髙にさえ話していない株の失敗、別れた妻の事、仕事での不遇を、ほかのメンバーには “オフレコ” の約束で、既にウーロンには話している。
相手が男なら、プライドが邪魔して逆に言えないからかも知れない。
(さて……戸髙がホモだったら俺はどうするだろう)
〔きっぱりと縁を切る!〕それが勲の答え。
相手が嘘をついているかもと言う気楽さと、酔いで言葉が少しきつくなったかも知れない。
チャットを落ちる、いつもの挨拶の後、
〔きっぱりと縁を切る!〕勲は、あえてもう一度付け加えた。
〔きっぱりと縁を切る!〕意外な言葉が返ってきた。
彼の性格からもっと柔らかい答えが返ってくると思っていた直子は、少し戸惑う。
不倫話のときも他のメンバーと違い彼は肯定的だったし、性的な話には少し鼻の下を伸ばしたりもしたが真面目に答えてくれた。別に解決策が欲しかったわけでもないし、二人の遊びのことまでは言っていない。女友達が自分に好意を持っているみたいだと、いつもの作り話と同じように聞いただけ。
直子と恵がアルバイトを始め、真央と会う回数が減ってから、彼女の直子に対する態度は少しずつ変化していた。嫉妬……固執……執着……しぐさ、表情、言葉。
明らかに友達に対してとは違うそれは、恵にさえ薄々なにかを感じさせる程になっていた。
〔きっぱりと縁を切る!〕……昨夜の言葉が、まだ頭に残っている。
いじめのことを抜きにしても、同世代の友達との関係が得意ではなかった直子にとって、それは
漠然と抱えていた疎外感から救ってくれていたもの。
もしかすれば、人生で初めてかもしれない友情。
だが、彼女の感情が友情でないなら……。
そこまで考えて、視線は時計を探す。もうそろそろ仕事に行かないといけない。以前のように思考に埋没することは、最近少なくなってきている。
老人達に受けの良い薄めのリップを塗り直し、仕事着のトレーナーに着替えた。
所詮、融通のきかないおっさんの言葉……今すぐ結論を出す必要はない。
「女の友情ねえ~」
沙織は珍しくお茶を引いて、洗い物をしている直子の横で話しかけてきた。
さっき恵と喋っていたのを聞きかじったのだろう。
美雪が常連客と外に出たので、店内は恵が目当ての四十代の客が1人いるだけ。沙織は甘めのドレス、恵はピンストライプのスーツ、洗い物をする直子はトレーナーと年齢も服装もばらばらで、直子が入ってから、それがこの店の雰囲気でもある。
一緒に働いてながら、これまで直子は沙織とプライベートな話題を余りしたことがない。美人で、女から見ても色っぽい沙織は、若い頃、婚約破棄したとの噂。
「私の年になると、みんな家庭大事で冷たいもんじゃけ。直ちゃんの年頃は、友達がいっちゃん大切だと思うんじゃろうけどね。それより彼氏とかはどうなん? 男の子家に連れて来たことないんやってお母さん言うてたで。直ちゃん美人やから幾らでも来るやろ。選びすぎたらあかんで~」
経験人数は、沙織さんと同じくらいですよ……とは言えない。
本人のいない所では、みんな色んな話をしている。
直子は婚約破棄の話が聞きたくて、うずうずしていた。
「私ら直ちゃんの頃には、毎週合コンしてたな。みんな羽振り良かったし。あ~あ、もう見た目どうでもいいけん、どっかにお金持ちおらんやろか」
「合コンしようか?」
灰皿を取り替えにきた恵が、茶々を入れる。
「若いピチピチと一緒に並べるかいな。あほ~」
沙織はそう言うと、入ってきた客に愛想をしに行った。
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