第13話
女の日常①23
どこを触っても感じるようだ。しかし男はそれで満足する程、お人好しではない。
名器の嬌声は、やがてすすり泣きに近くなり、旋律がその美しい肌を振るわせる。
「あんた憎たらしいわ」
一息ついて、沙織は煙草に火をつけた。
「店では吸ってなかったん違うんか」
「年配が多いからうるさいんよ、うちの店。スナックやのに変じゃろ」
本人は吸わないようだが、男は別段、嫌そうな素振りは見せていない。
「お前、あんな場末には
「どうせほんとは、もっと若い子の方がいいんじゃろ」
「若い子って、お前まだ三十そこそこだろ」
「もう直ぐ入るけん、若い子。25歳じゃと。それにママの娘も手伝いに来るきね。……あ~あんた、うちの店では、私の他に手出したらあかんけえね」
「あほ言え、ママって上田のおっさんの女やろ? その娘になんか
「ふ~ん、やっぱりそうなんか。水商売は客とは寝ないもんじゃ思ってたけど」
「お前はどうやねん」
「うちはアルバイトじゃけんね。長く水商売する気もない」
女の日常1②3
美雪は迷ったが、直子が店でアルバイトするのを許した。女の子が2人辞めることになり困っていた所に、直子が友達を紹介すると言う話に乗ってしまったからだ。
辞めた原因は恐らく沙織だろうが……理由が、華があり過ぎて嫉妬を買ったと言うのでは、本人を咎めるわけにもいかない。友人は年齢的に沙織とかち合うこともないだろう。直子には、カウンターの中で洗い物でもさせておけばいい。
正直、水商売をやらせたくはなかったが、直子が一時期、店を毛嫌いしている風だったのを思えば複雑ではあるが嬉しくもある。要するに子離れが出来ていない。専門学校にでも行かせてやった方が良いと思っても、県外に行くと言われれば、寂しくて美雪の方が参ってしまいそうだ。上田の事があるとは言え、やはり美雪の頭の中は、そのほとんどを直子が占めていた。
いい年して彼氏を家に連れて来たこともない。女の子の癖に夜中じゅうパソコンに向かっている。この間、覗いたら……釣りをしているおっさんの写真。
ゆうき、ゆうきとアイドルに熱中していたから、男の子に興味がないわけでもないのだろうが……。
男親とは違い適度に遊んで欲しいと思う。だがそうかと言って心配なのにも変わりはない。親の心情とは複雑である。
時おり直子が家に泊めて貰う友人も、ラウンジで働いている割にきちんとしていたから、美雪は雇うのを引き受けたのだ。
「金髪の子でも連れて来たら、どないしようかとおもた」
美雪はうわの空に気付き、老眼鏡を掛け直して、睨みながら電卓を叩く。
客にはけっして見せられない光景である。
女の日常12③
ホストに
松田恵は
(洗い物から便所掃除、胃を壊すほど飲んでこれだけ)
恵のバイト代とほぼ同じ、ラウンジなら2週間弱。
これならバーテンでもする方がずっといい。多分、良い様に騙されているのだ。
実家が裕福な彼の賃貸マンションに恵が転がり込んだ、までは良かった。
計算違いは、彼の実家の養殖業が傾き、家賃の援助が受けられなくなったこと。
坊ちゃん育ちの啓吾はどうせ家業を継ぐと思っていたので職は続かず、高校の先輩に誘われてホストクラブで働きだしたのが半年前。水商売のプロではない素人がふらふらしている後輩達を上手く使って、やっと経営しているような店だった。
金に困っているわけではないが二人に不釣合いな家賃もあり、そうそう余裕があるわけでもない。…………宙ぶらりん。
浮気でもする甲斐性があれば、指名も取れるのに。
ぶ男ではないが、人の良さとゆるい性格が顔に出ている。
締りのない腹に、似合わない茶髪。友達にも一度も紹介していない。
真央には貢いでいるのかと心配されるが、生活費とはとても言えなかった。
みんな、相当のイケメンだと思っている。
「貴方は、白馬に乗った王子様」
洗濯物を畳みながら、恵は歌うように口にする。
「うん? なんか言った」
啓吾は、ベランダのプランターの雑草をピンセットで摘んでいる。
「なんでもないよ。……変なとこ、まめなんじゃから」
今夜から直子の母のスナックで働くことになってはいるが時間はまだ十分あった。
「貴方は、私の王子様」
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