第1話(番外編)カズとマサユキ
(こちらのお話は、「この胸に溢れんばかりのありったけの想いを」に登場するカズと雅之が若かりし頃にヨサコイチームで踊っていた頃の話になります)
僕らは土砂降りの中、円陣を組む。
よし。いくぞ。雨になんか負けんなぁぁぁ!オオオオォ!僕らは円陣から離れ、それぞれの位置につく。練習の最中、ずっと僕らが求めた周囲の歓声は聞こえない。聞こえるのは、激しい雨音だけだ。
「いま名古屋市内に、台風が近づいております。
しかし、こちらに通過しないと思われますので、イベントは決行することになりました。」
ずっと、僕らはこのよさこい祭りの為に練習してきた。本来なら、よさこい祭りは台風になった時点でどんなに天気でも中止になる事が多いのだ。
しかし、今回は台風が近づいていたとしても市内を頭上しないからという理由で決行されてしまった。「危ないのに、何考えてるんだ」と、きっと街の住民は怒るだろう・・・。
もちろん、こんな台風警報が来るかこないかわからないような大雨の中、誰も僕らが踊ってる姿を見てなくても僕らは、精一杯声を出して叫び続ける。
客は、ただ一人。僕らの代表。エースの和彦だ。誰よりも一生懸命練習してきたあいつは、本来なら今日はチームのセンターで踊るハズだった。しかし、前日の怪我のせいで、骨折してしまい急遽踊れなくなったのだ。
全部、全部。僕のせいだ。僕は、チーム内でも一番踊りがヘタクソで問題児だった。皆は、踊れない僕の為に色々教えてくれた。
こうすれば、きっと踊れるようになるよ。もっと、こうしたらいいよって諦めないで僕に教えてくれた。
でも、理解力に乏しい僕には人に一回言われただけでは、何を言っているのかさえわからなかった。
だから、僕は「どうしてですか?」と聞くようにしていた。
「「どうしてですか?」じゃないよ。
だから、言われた事をそのままやればいいんだよ!」
僕に教えてくれた人は、やがて僕にイライラしはじめた。
何やってんだよ。素直に俺の言うとおりやればいいんだよ。頭で考えずに、言われた事を何度も繰り返して覚えるんだよ。
そんなこと言われても、僕には言われた事がすぐに理解できないんだ。みんなみたいに、すぐに出来ないんだよ?そんなこと言われても困るよ・・・。
しかし、僕が弱音を吐くと「お前は、何でそんなに言い訳じみているんだろうね。だから、いつまで経っても皆が出来る事が出来ないんだよ」と、言われるだけだった。やがて、皆は少しずつ僕の事を諦めるようになった。
しかしそんな中、チームメンバーのカズだけは何故か僕を諦めようとしなかった。
「大丈夫。出来る。出来る。絶対できるよ。」って、僕を信じてくれた。
僕は、カズの言葉を信じて一生懸命踊りの練習した。そんな中、ある日具合が悪くなり病院に行った僕はお医者さんに「君は、適応障害ですね。」と宣告された。
おまけに、僕の病気は適応障害だけでなく、衝動的に突発的な行動に出てしまう事があるからハサミや凶器になるようなものは極力持たないようにしてくださいと言われた。
「僕は、そういう凶器を持つような人じゃないから大丈夫です。
今までだって、ずっと真面目に生きてきましたし」と医師に伝えたが「いや、あなたがそう思っていてもね、どうにもならない事ってあるんですよ。
犯罪者の人だって『そんなつもりじゃなかった』とか後で言うじゃないですか。必ずしも、犯罪を犯した人が全員最初から犯罪を犯そうとは思っている訳ではない。だから、自身で気をつけないといけないんです」と諭された。
僕は、ずっと生まれてこの方知らなかったけど障害者だったんだ。普通の人と同じように、学校へいって友達も出来てたけど。本当は、障害者だったんだ。何度も何度も「障害者」という言葉が頭の中をグルグルと回り続けた。
ある日突然、僕は「障害者手帳」と書かれた冊子を渡されて障害者となった。障害者になるまでの過程は、非常にアッサリとしていて拍子抜けした程だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます