八之剣 「老婆」

 なんだ、体に植物がへばりついてる!?


 ソラは、自分の体に植物がへばりついていることに気がつき、慌てていた。


「動くな!!若造」


 強い口調で、ソラに話しかけてきた老婆。彼女は、妖精たちにエレムと呼ばれている人間です。


「ええ、て、言われたって。この植物、俺に食いついてますよね?」


「大丈夫じゃ。このタイプは、人を食べない」


 てことは、食べるタイプもいるってことなんじゃ......。


「あの、ここはどこなんですか?」


「妖精の森。大自然が溢れ、妖精たちが住む場所じゃ」


 妖精の森......。

 どこだ。

 そこは。

 知らない。

 聞いたこともない。

 一体、俺は、どこまで来てしまったんだ。


「イマリ村。イマリ村をあなたは知っていますか?」


 イマリ村は、ソラのいた村の名前だ。イマリは、この世界の言葉で「はじまり」を意味しています。


「イマリ村じゃと。知っていることは知っている。ここから、西のほうにすすみ、山を越え谷を越えたところにある村の名前じゃな」


「西ですね。今すぐ俺はそこに向かわないといけないんです!!」


「じゃが、その村は今は存在しない。とっくに魔王によって滅ぼされておる!!」


 滅ぼされた。イマリ村が。

 嘘だ。嘘に決まってる。

 だって、村が滅びるにはあまりにも早すぎる。


「信じられないという顔をしているな。無理もないじゃろう。お前は、ここで、長い眠りについていたのだからな」


 俺が気を失っていたのは、体感では一日くらい。もしかしたら、それ以上の時が流れているってことなのか。


「俺は、どれくらいここで眠っていたんですか?」


「お前は、この場所で、眠り続けていた」


「三年だってーー」


「ああ、そうじゃ。お前が、ここに来たとき、瀕死の状態じゃった。妖精たちの魔法と森の植物から少しエネルギーをもらうことで一命をとりとめることができた。じゃが、今日まで意識が、戻らなかったから、諦めかけておったところじゃった」


「じゃあ、本当に。村は。イマリ村はすでに、滅びたってことなのか?村の人々はどうなった?まさか、魔王に」


 ソラは、しわくちゃになった顔で、エレムに言った。


「そこまでは知らん。じゃが、魔王は、刃向かうものには容赦しないと聞く。もしかしたら、ということも考えておいたほうがいいかもしれんの」


 ポワル、テラ、村のみんなーー。

 俺のせいだ。

 俺があの時、守れなかったから。

 俺がもし、あの時、魔王を倒していれば。


 ソラは、体についた植物を引き抜き、立ち上がろうとする。


「待て、どうするつもりじゃ!!」


「どうするって、今からイマリ村に行く!!村の人を助けないと。約束したんだ。俺が魔王を倒してみんなを守るって......」


 ソラが、立ち上がり歩こうとした時だった。足に力が入らず、彼は、バランスを崩し、地面に倒れ込む。両手を地面に置き、顔を下に向けた状態になっています。


「その様でか。お前の体は、だいぶ衰えておる。立つことすらままならないはずじゃ。そんな状態で行っても誰も救えんよ」


 おばさんの言うとおりかもしれない。

 体に力が入らねーし。

 足も手も震えて、

 まるで自分の体じゃないみてーだし。


 でも、それでもーー。


「俺は、このままじっとここでゆっくりしている暇はないんだよ!!ぜってー、救う。みんなを!!そのためなら、この体を引きずってでも魔王のところへ行く」


 ソラは、全身に走る痛みに耐えながら、足をふるわせて、なおも立ち上がろうとする。とても痛そうな顔をしています。頑張れ、ソラ。立ち上がれば、意外と楽かもしれません。たぶん。


「無理じゃ、いくら立ち上がろうとしても立ち上がることなど」


「無理じゃねー。これくらい、どうってことない」


 ソラは、無理やり、足に力を込める。徐々に曲がった足が縦にまっすぐになっていく。そして、ついに、相変わらず震えは止まっていませんが、足を伸ばし、立ち上がる。ソラの顔には微笑みが浮かんでいます。


「どうだ。立ったぜ。俺は、まだ、やれる。おばさん、俺を村に連れて行ってくれ」


「こやつ......」


 普通の人間なら、間違いなく立つことはできない。じゃが、こやつ、気合いだけで立ち上がりおったわ。


 それにーー。


 いい目をしておる。絶望の中にいても、まっすぐ前を見つめることができる目じゃ。


 もしかしたら、こやつなら、魔王を倒せるかもしれんな。


「良かろう。村まで連れて行こう。じゃが、その前に、お前に案内したいところがある」


 体が衰えきったソラ。彼は老婆にどこに案内されるのでしょうか。

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