六之剣 「敗北」

 よく見ると、ソラはまだ攻撃を続けている。どうやら、ソラの攻撃が届いていないのは、魔王の周囲に強力な魔法の壁がはられているからのようだ。ソラの凄まじい攻撃を受け続けても一向に、壊れる気配がない。これが、聖剣を手にした魔王の力。圧倒的だ。


 だめなのか。俺の攻撃は、魔王には届かないのかーー。


 ソラは、テラに力を借り、自分の全力を出して一撃を加えた。ですが、魔王を守る壁にひび一ついれることができませんでした。その動かしようのない事実が、今までの努力や苦労が全く無意味だったのではないかとソラを弱気な気持ちにさせています。

 だめだ、ソラ。暗い気持ちに飲み込まれてはいけない。勝てるものも勝てなくなってしまう。


「ソラ、負けないで!!」


 どこからか、ソラの不安をかき消すような女性の声が聞こえた。本作のヒロインようやく六話にして登場か。


 ポワル、ここに来ていたのかーー。


 やはり、ソラの幼なじみポワルの声だ。どうやら、ポワルはソラには内緒で大会に来ていたようです。まさか、彼女は大会がこんな悲惨な状況になるとは全く想像していなかったことでしょう。


 くそー、ポワルが見ている前でカッコ悪いところ見せられねーよ。あれこれ考えていても仕方がない。とにかく自分の全魔力を剣にのせて、全身全霊でぶった切る!!


 ポワルの一声で、ソラの顔つきが変わった。ソラにとって、ポワルは、落ちこぼれだった頃からずっと陰で支えていた大切な人。そんな彼女に声をかけられたことで、ソラの中から、迷いが消えた。迷いがなく、まっすぐな良い顔つきになっています。

 ソラは剣を力強く握り、意識を集中させる。すると、剣の輝きが一段と増していき、剣の威力がどんどん上がっていく。

 剣と魔法の壁との間では、摩擦が生じ火花が散っています。強烈な魔法どうしのぶつかり合いだ。お互いの力は、ほぼ均衡している。ほんのわずかでも、力が増していた者が、この戦いの勝者となります。どっちだ!!どっちが勝者になるんだ!!


 ピキッ。


 魔王を守る壁からひび割れるような音がした。ソラの与えつづけた一撃が、ついに、壁の強度を上回った。このまま行けば、壁を破壊し、魔王にきつい一撃を食らわせることができます。

 だというのに、魔王は相変わらず、焦る様子がない。冷静な顔をしていて、むしろ余裕すら感じられます。


 行ける、このまま、行けば魔王を倒せる。


 ソラは、決して力を緩めることなく攻撃を続けていた。油断していた訳でもなければ、手を抜いた訳でもない。


 ですが、勝敗は思わぬ形で決まった。


 突然、ソラの剣に異変が起こったのです。

 剣はいきなり横に線が入り、魔王の強力な壁に弾かれて、剣先が吹っ飛んでしまった。光の大剣もそれと同時に消えてなくなります。

 ソラの持っていた剣では、膨大な魔力を受け止めるのに限界があったようです。魔力に耐えきれず、折れてしまった。


 そ、そんな。


 予想だにしなかった事態に、唖然とするソラ。急に、剣が折れたことで、体の体勢を崩している。一方で、魔王は、笑みを浮かべる。


「悪くなかったよ。でも、速さだけね。そんな攻撃じゃ、だめ。あなた、ただ素早いだけのハエみたいね」


 ソラは、体勢を崩し、宙に浮いている瞬間に、魔王の声を聞いた。


 届かなかった。


 ソラは全力を出しきった。それでも、魔王にはかなわなかった。ソラは、この瞬間、今の自分の限界を知った。


        “闇ー風”


 魔王が呪文を唱えると、ソラの前に影が現れ、そこから竜巻の如く凄まじい風が勢いよく吹き出る。

 ソラは、自分を見守ってくれた村人たち、そして、ポワルを見つめていた。剣が折れた後でも、人々は、ソラのことを信じてくれていた。


 ごめん、守れなかったーー。


 ソラは、吹きつける風にのって、村から、山を越え、谷を越え、はるか遠い場所へ飛ばされていく。彼は、ゆっくりとまぶたを閉じると、目元から溢れ出た雫も風にのりどこかに飛んでいった。

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