婚姻届と初めて知る事実。
「あの…
婚姻届には今までの名字の金井さんで書いてもらえますか?」
10月3日市役所を訪れて、婚姻届を職員に見せるとそんなことを言われた。しかも若干不機嫌気味で。
まるで“婚姻届の書き方くらい調べて書いてくれよ”ってぐらいの勢いだった。
『いやいや、私達同じ名字なんですよね』
「では、どうして両親と違う苗字なのでしょうか?」
ったく、使えない職員だな。こんなんでよく採用されたな!って言い返したいがそこは押さえて押さえて…
『母親が今の父親と四年前に再婚したのですが、そのタイミングで自分は名字を変えなかったんです』
ご丁寧に説明しているのに、理解していない表情の職員。
「あの、そこまで言うなら戸籍謄本見たらどうですか?」と一樹は冷静に口を開いた。
『あぁ、そうしてください』
「わかりました」と職員。
あまり使えない職員に当たってしまったようだ。入籍するって、結構面倒だな…
「あっ、自分もちょうど戸籍謄本ほしかったのでもらえますか?」
「それではお二人分でよろしいでしょうか?」
『「はい」』
私が戸籍謄本とるのは、やむ終えずだが…一樹はどうしてだろうか?
数分して職員が私達の戸籍謄本を出してくれた。
そこにはたしかに母親の名前“金井亜衣”が記載されていて、娘の欄には“佐藤美咲”と書かれている。
そして初めて知ったのだが、私の生まれが実の父親の地元である兵庫県らしい。
子供の頃、父親の仕事で色んな地方を転々としていたのは聞いていたけども出生までは聞いたこともなかっただけに驚いた。
「お手数かけて申し訳ございませんでした。ではこちらの婚姻届を提出させて頂きます」と職員。
おいおい、しっかりしてよ。
こんなのが国や町の税金で生活してると思うと心底腹立たしいものだ。非常に不愉快極まりない。
一樹は手渡された戸籍謄本に目を通している。
それから数分後…
「受理されました。おめでとうございます」と使えない職員に言われ、私達は晴れて夫婦となった。
市役所を出て一樹は「これからよろしく~!」と軽快に言ってきた。
『こちらこそ。あと60年は一緒にいようね!』
今までも6年と長い付き合いをしてきたが、私達は夫婦になったんだ。
特に自覚はないし、結婚と言うのは案外あっさりしてるものだと知った。
こんな簡単な手続きのために、私はどうして今までこんなにも悩んでいたんだろう?と思うほどにアッサリ。
「俺の父親の名前、箱田正恒って言うんだって」
『今まで父親の名前知らなかったの?』
「母親から聞くわけにもいかないだろ」
『気は遣うよね』
お互いに両親が再婚で今の父親は義理の父親だけに、そういう気持ちは、かなり理解ができる。
けど25年生きてきて、父親の名前も知らなかったと言う一樹には驚いたな。
「いつか会ってみてぇな」
『探す?』
「探してみてぇよ。会いたいし、結婚したことも伝えたいしな」
一樹…そうか。私も貴方の父親を一緒に探してあげたいよ。
こんなに素敵な人の父親だもの。私だって会ってみたいよ。
『そういう番組あるよね…会わせ屋的な?』
「ガチで探してくれるなら、応募したい。美咲はお父さんに会いたいとか思わないのか?」
『あたし?全然会いたくない。
なんなら報告もする気がない。前にも話した通りあたしの父親は最低だから』
父親なんて居ないものだと思って生きてきた。
何せ私の父親は、ギャンブルでヤミ金から借金を作り母親をいくどとなく泣かせてきたろくでなしだから。
しかも10代の頃に連絡を取り合ったのだけども、そのときに“金を貸して欲しい”と娘に言ってきたバカな親。
あんなの父親でもなんでもない。ただのクズだもの。
「そうか」
『だから父親に幻想を抱く気持ちも分かるけど、実際会った後に一樹が後悔しないかなって不安ではあるよ』
「ありがとうな。けど必ずいつかは会いに行くよ。その頃には、自分に子供がいるかもしれないけど」
『ふふっ、まだ想像も出来ないけどね。今は二人での時間を大事にしようね』
たった今夫婦になったばかりだ。子供なんて到底考えられやしないよ。
第一結婚するまでにここまで悩んだんだもの…子作りなんて、もっと悩むことになるだろう。
私達は手を繋いで歩いた。
【せっかく夫婦になれたなら、これからぶつかる壁は二人で乗り越えていきたい。
いざ夫婦になって、今まで感じたことのない女としての幸福感を噛み締めることが出来たよ】
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