ブレイブロード

@goburin521

第1話

 特に特徴もないただの高校生。

 中学受験を必死に頑張り、家計に厳しかった俺は、そこそこの公立高校に通う事ができた。しかし、時間の流れは恐ろしく、高校入学からはや1年。

 現在ニート高校生です!もちろん彼女はいません!

 偏差値60の高校に通う俺に比べて、70以上の名門校を卒業し、京都大学を出て、大手企業会社に勤める兄は、この家の誇りだ。



 とにかくすべてが普通の俺は、何をするにも普通。身長も175センチ。長身とはいえないくらいで、顔は中の上。

 何度か告白された事はあったが、全員がブスだった。

 まぁ、せいかくはいいとおもうけど、俺は顔重視タイプの人間だからしょうがない

 俺の性格は言うまでもない、クズだ。自分でも自覚している。



 近所では名高い兄とニートの弟という名で通っているらしい。

 人生勝ち組の兄貴と、クズの俺。兄弟でこれほどの差があるのは、今までま誠実に生きてこなかった俺が悪いんだろうけど。

 まぁ、1つだけ言っておくと、俺は彼女を作らないだけだからね?



「かあさん。この度、真美さんと結婚する事が決まったよ」



 黒いスーツを着こなして、髪をセットして完璧な兄貴。その隣に立つ綺麗なお姉さん。

 わざわざ、結婚報告しに家まで来た兄貴に、俺は嫌気がさした。

 何処かで嫉妬しているんだろう。そんな兄貴を見ていると自分が恥ずかしくなり、俺は部屋に戻ってゲームを再開した。

 兄貴は俺に何か言いた気にしていたが気にする事なく戻った。


 目の前の画面に映るモンスターをボタン一つで次々と倒していく。

 人生とはまさに、今目の前で繰り広げられているゲームのようだ。勝っていけば、名誉がもらえお金も貰える。負ければ、お金もなく、ただ落ちぶれていくだけ。


「つまんねーな」


 一人誰もいない暗い部屋でポツリと嘆くようにはなった言葉は、自分のこれからの人生に行っている気がした。

 すると、俺の部屋をコンコンと叩く音がした。その先にいるのは誰だかわかる。



「なんだよ、兄貴」


「ちょっと話そうぜ」


「今ゲーム中なんだけど……」



「お前まだゲームなんかしてたのか?勉強しろよ勉強。勉強してたら邪魔だと思って帰ったのに」



「余計なお世話だよ」



 兄貴は俺のニート事情を知らない唯一の一人だ。

 そんな兄貴が俺の状況を知ればどうなるだろう。


 俺は兄貴を渋々部屋に入れた。



「で、話って何?」



「なに、久しぶりに優希と話がしたくてさ」



 兄貴はそれが本心なのか本心じゃないのかわからない。兄貴の目がそれを語っていた。嬉しそうな目。

 どうせ、結婚の自慢話をしに来たんだろう。



「母さんから聞いたけど、学校行ってないんだってな」



 どうやら、バレてしまったようだ。あのババア…………

 でも、特に隠す必要もないと俺は思った。



「あぁ、そうだよ」


「何でだ?」


「いいだろ別に、めんどくさくなったんだよ」



 俺は兄貴の言葉を適当に返した。手にはまだコントローラーを持っている。



「困るのはお前だぞ?後悔するのはお前だぞ?」


「もう既に後悔してるよ。でも、もう戻れないんだよ」


「まだ間に合うだろ?」



 当たり前のことを当たり前にできる奴は、簡単にそんなことを言える。俺は中途半端な人間なってしまった。


 今日はやけに突っかかってくる兄貴に、俺は少し苛立ちを覚え、



「なんでもできる兄貴には、俺の気持ちなんてわかんねぇだろ!」



 思ったことをそのまま兄貴にぶつけた。


「結婚の自慢話しに来たんだろ?早く真美さん連れて自慢しろよ!」



 自分でもわかってる。こんな事が皮肉だってことを。でも、俺はクズになってしまったんだ。



「おい!」



 手に持っていたコントローラーを無造作に投げつけ、部屋を飛び出す。

 胸の奥から悔しさと情けなさが込み上がってきた。家を飛び出し、とにかく走った。


 ヤバイ、1年以上運動してないせいで、すぐに息が切れちまった。

 しんど!走るのしんどいわ………

 俺ってば、こんな事がして、まともな人間にはなれんだろうな将来。

 家、帰ろう…………


 *


 日もすっかり落ちて、星の微かな光が暗い街を照らす。

 家の玄関の前で、兄貴と真美さんが立っているが見えた。もう帰るんだろう。

 最後に兄貴に謝ろうと声をかけようとした、その時。真美さんの後ろに、怪しげな格好をした男が近づいてくるのがわかった。

 そして、刃物を取り出し、真美さんに切りかかろうとする。

 俺はすぐさま、真美さんを押し飛ばし、代わりに受けてしまった。横腹に熱い何かが流れているのがわかる。



「ちっ!くそっ!」


「優希!」


「優希くん!」



 一度も話した事なかった真美さんに名前呼んでもらえたぜ………

 そんな小さな幸福も、もうあとわずか。


「おい、しっかりしろ!救急車を呼べ!」



 兄貴がすごい顔で叫んでいる。そんな顔したらせっかくのイケメンが台無しだぜ?

 あ、そういえば、



「兄貴………」


「もう喋るな!血が溢れてる!」


「1つだけ……頼みがある…」


「どうした?」


 兄貴の頰に流れる涙が俺の顔に当たる。


「俺の机の引き出しにある……エロゲー捨てといてくれ。トップシークレット……だ」


「なにふざけたこと言ってんだよ!」


「これが……俺の頼みだ…頼んだ」



 これで言いたい事は言えた。もう悔いはない。

 薄れていく意識の中、今までの人生を振り返る。



(ロクな人生送れてなかったな俺)



 そして、俺はゆっくりと目を閉じて、眠りについた。最後に願うのは、



(エロゲーだけは見つかりませんように)



 俺、五十嵐優希の命は終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る