ナルシストの如月くん

皐月 遊

第1話 「イケメンの過去は良いものとは限らない」

俺、如月奏太きさらぎそうたは、イケメンである。

世の中の女性に聞いてみれば分かる。


「この男性、如月 奏太はイケメン? ○か×か」


こんな質問をしたとしよう。 答えは100%"○"だ。


風に揺れるサラサラの黒髪! キリッとした眼! スラリとした細い身体! 程よくついた筋肉! 長い足! そして何より顔!


こんな俺がモテないわけがない。 事実、今日家から学校に来るまで15人の女性から「写真撮ってください!」「握手してください!」

と言われた。 もちろん応えてやったさ!


そして、そんな俺、如月奏太は今日! 高校に入学する!

俺が入学する高校は、私立城ヶ崎学園。

ここら辺じゃ有名な進学校だ。


これを待ってたんだ。 夢の高校生活! 友とスポーツで汗を流し、河川敷で寝転がり、ゲーセンで遊び、友達の家でゲームをする!!

そんな俺の憧れの生活が、今日から始まるんだ!



………ここでぶっちゃけるが、俺は生まれた時からイケメンだったわけではない。

あれは…思い出したくもない小学生の時の事だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺は、小学生の時はガリガリの雰囲気が暗いキモ男くんだった。


小学生の時、俺はクラスで嫌われ者だった。 いや、誰からも相手にされてなかったが正解か。


今回は、俺の小学5年生の時の話をしよう。


「…ねぇ如月くん」


俺みたいなキモ男くんに話しかけてきたこの女の子の名前は橋本はしもと。 名前は覚えてない。 てか知らない。

この橋本の俺を見る目は今でも覚えてる。 あのゴミを見るような目…!!


そして、この時1番ショックだった言葉…それが


「机、くっつけないでくれない? お願いだから」


これだ。 …いや、だってしょうがないじゃん! 机くっつけるのが決まりなんだからさ!

それで机離したら先生から「如月くん、橋本さん。 机をくっつけなさい」って注意されるんだぞ!?


その度に橋本はチッと舌打ちしてくっつけるんだ、俺のメンタルはズタボロだぜ!?


……まぁ…小学生の話はここら辺にしよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次は中学生の時の話だ。


あれは…思い出したくもない記憶だ。 俺の人生で1番の失敗と言っても過言ではない。


中学生の時、俺は変わらずガリガリの雰囲気が暗いキモ男くんだった。

スポーツも出来ないから部活には入らず、毎日暇な生活を送っていた。


だが、そんな俺にいつも話しかけてくれる女の子がいた。


「あ、如月くん帰るの? 一緒に帰ろ!」


この少女の名前は、音咲小春おとさきこはる俺と同じ中学1年生で、同じ帰宅部、同じクラスだった。

地毛の茶色い髪を肩まで伸ばした明るく可愛らしい女の子だ。


「お、音咲さん…! い、いいよ!」


この俺の返しの恥ずかしさったらない。 今では発狂ものだ。 今すぐにでも発狂したいくらいだ。


「もー、小春でいいって言ってるでしょー?」


「い、いや…名前呼びは…ちょっと…」


音咲小春は、頻繁に俺にボディタッチしてきた。 朝会えば肩を叩いておはようと言い。 何処かに行く時は手を握り。

俺が小さい声で話せば顔を近づけ、帰りは頻繁に一緒に帰る。


俺と音咲小春の出会いは、中学初日に2人共遅刻し、たまたま同じクラスだったから一緒にクラスまで行っただけの仲だ。

なのにこんなに親しくしてくれた音咲小春に、俺は少しずつだが惹かれていったんだ。


そして、中学2年生の夏、俺はとんでもない事をやらかしたのだ。

その日は夏休みに入る前日、一緒に帰ろうと言ってきた音咲小春と一緒に帰り、帰り道の途中にある公園に2人で入り、音咲小春をベンチに座らせ俺は……!!


「お、音咲さん! す、好きです! もしよければ俺と…付き合って下さい!」


と、言ってしまったんだ。 音咲小春は、女子からの評判は悪かったが、男子からの評判は良かった。

優しく可愛い音咲だ。 モテないはずがない。


だが、音咲は明らかに俺にだけ態度が違った。 だから俺は"音咲って俺の事好きなんじゃ…?"と思ってしまったんだ。


そして、音咲は…目を左右に泳がせ、ほんのり顔を赤らめていた。 俺は期待していた。


だが…!


「…ご、ごめ如月くん…今は如月くんと付き合えない…かなぁ…」


"今は如月くんと付き合えない"。 "今は"。 今はという言葉が、ずっと俺の中に残っていた。


今はって事は、俺がキモ男くんじゃなければ付き合えたって事だよな。

ほら、やっぱり顔じゃないか。 思わせぶりな態度をしといてこれか。


だが、音咲は悪くない。 勘違いした俺が悪いんだ。

音咲はただ、俺と友達で居たかっただけかもしれない。

友達が居なかった俺には、それだけで十分だったはずだ。


…なのに…この時の俺は、ついカッとなってしまった。


「…な、なんでだよ…やっぱり顔か!? 雰囲気が暗いからか!? だから付き合えない!?」


「え…? ち、違うよ…! 私は…」


「今はって事はそういう事だろ…!? 勘違いさせないでくれよ!」


何かを言おうとしていた音咲をその場に残し、俺は泣きながら走って家に帰った。

そしてその日から、俺改造計画が始まった。


イケメンになれば音咲と付き合えると思ったんだ。 ちょうどよく夏休みだったしな。


毎日走って筋肉をつけて、雰囲気を暗くしてた髪を切りサッパリし、背を伸ばすためにあらゆる方法を試し、健康な生活、早寝早起き、笑顔の練習をした。


そして、夏休み明け、雰囲気がガラッと変わった俺は、音咲の驚く顔を楽しみにしながら教室に入った。


教室の皆が俺を見て驚いている中、担任から告げられた言葉、それは…


「えー…音咲小春は、転校しました。 理由はイジメだそうだ。 佐藤、前田、藤田。 あとで職員室にきなさい」


俺はその時、文字通り停止した。


原因はイジメ。 ある程度クラスに溶け込んだ俺は、3年生の時に何気なく女子に聞いてみた。


「2年生の時に音咲小春って人が転校したじゃん? あれって原因なんなの?」


「あーあれね! なんか音咲さん女子から嫌われてたんだよ、そして、ある女の子が夏休み前に…誰だったかな…気持ち悪い男の子に告白されるの見たんだって、その事が噂で広まって…」


気持ち悪い男の子。 俺だ。 だがこの女子には俺だと分かってないみたいだ。 それくらい、俺の存在は薄かったわけだ。


「それで、佐藤さんと前田さんと藤田さん。 あの3人が音咲さんの家にからかいに言ってたらしいんだよ」


これは衝撃だった。 佐藤、前田、藤田は。 陰湿なイジメっ子女子だった。 俺も何度かいじめられた事があるが、まさか音咲がそんな事をされていたとは……


つまり、あの日俺が音咲に告白なんてしなければ、音咲はイジメられずにすんだわけだ。

俺がキモくなくて、普通の男だったら、音咲と話してても問題はなかったはずだ。


今回の件、原因は全て俺にある。


だから、俺はこの日から、さらにイケメンになる為に努力をしたんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ねぇねぇあの人、すごくイケメンじゃない…?」


「分かる! 」


「カッコいー!」


ふふふ…女子どもよ、聞こえてるぜ? そのヒソヒソ話はよ!


今はクラスの担任紹介と自己紹介の時間だ。 だから皆静かだから丸聞こえなんだよ。


「あー…お前らの担任になった。 近藤こんどうだ」


近藤先生は、黒髪を後ろで結んだ美人の先生だ。 まぁ…やる気はなさそうだが…


「あー…んじゃまぁ…適当に自己紹介でもしとけー」


近藤先生がそう言うと、出席番号順に自己紹介が始まった。

そして、ついに俺の番が回ってきた。


俺が立ち上がると、女子たちが目をキラキラさせる。

昔は考えられなかった光景だ。


黒板の前に立ち、皆に笑顔を見せる。


「はじめまして。 如月奏太です。 趣味はスポーツと音楽を聴く事です。 あ、あとは漫画とかも読みます。 1年間、よろしくお願いしますね!」


決まった! イケメンの自己紹介完璧だ! スポーツで運動できるアピール。 音楽でクールアピール。 漫画で子供っぽいというギャップをアピール!


完璧だ!


…まぁ、本当の趣味は漫画、ラノベ、ゲームだけどね。


その後に全員の自己紹介が終わると、自由時間になった。


「ねー如月くん! どこらへんに住んでるの!?」


「ねー如月くん! どんなスポーツが好きなの!?」


「ねー如月くん! どんな音楽聴くの!?」


「ねー如月くん! どんな漫画読むの!?」


「ねー如月くん! 今彼女いる!?」


なんだこいつら。 「ねー如月くん!」ってなんで息ピッタリ言えるんだよ。 打ち合わせでもしたのか?


まぁ、ここで寄ってくる奴らは大体顔しか見てない奴らだ。


顔だけしか見てない女子どもよ、砕け散れ。


…おっと、つい本音が出てしまった。 こんな事口走ったら中学の二の舞だからな。 ここは無難に…


「はは…いっぺんに質問しないでよ、1人ずつからにしてくれない?」


ウインクしながら言うと、女子達は一斉に顔を赤くする。

ふむ…女子は単純だな。


その後は入学式を終え、自由時間の後に解散となった。


「「「如月くん! 一緒に帰らない!?」」」


俺が帰る支度をしていると、複数の女子に囲まれた。


こいつらは…俺の家知らないくせによく一緒に帰ろうって言えるな。

場所が真逆だったらどうすんだよ。


「あーごめん! 帰りは寄るところがあるんだ」


無難にその場を切り抜け、1人で校門を出る。


俺の輝かしい高校生活1日目は、素晴らしい結果で終わった。

行ける…行けるぞ…! これは夢を実現出来そうだ!

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