私、生きたい!

耳が引っ掛かり、ネズミの顔のようになった猫。

それが間近に迫ってくる。


そのとき、私は死の恐怖を感じた。

肉屋に売られるときも、

店主に捕まったときも、

ハリーに咥えられたときも、

じつはそんなに怖くはなかった。

それが自分のことでは無いような感覚――

最初から諦めていたのかも知れない。


でも、今は違う。


死ぬのが怖い。

とても怖いの。


ジミーを助けてあげたいし、

マーチンにも会いたいし、


私はまだ生きたいの。


灰色の猫はグイッと頭を入れてくる。

耳がふわっと頭の上に持ち上がる。

頭が完全に鳥かごの中に侵入した。


私は思いっきり息を吸い込み――


「私を食べていいわ! でもハリー、その前にジミーを助けなくちゃ!」


ハリーに懇願した。

彼は動きを止め、深緑色の瞳を向けてきた。

黒いひげが微かに動いている。


「ニャーゴ……」


私に鼻を押しつけて、くんくん匂いを嗅ぐ。

そして鼻をペロリと舐める。


ハリーはもがくように鳥かごから頭を引き抜いた。


「ニャァァァ――!」


背中を向け、机から降りた。

私にはその鳴き声が『オレ様に付いて来い』に聞こえた。

ドアノブにジャンプ。

華麗な技でドアを開けた。


廊下に出る。

人影は無い。


私は走り出す。

その後ろからハリーが付いてくる。


食事室の茶色いドアが開いて、つり目気味のメイドが出てきた。




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