私、勘違いしていました……

私が鳥かごに入ると、灰色の猫が小さな扉を下ろした。

そして、金具に爪を引っかけてロックをかけた。


「ニャーオ……」


灰色の猫は寂しそうな声で鳴き、私をのぞき込む。

私には彼が何を言っているのか分からない。

私の言葉は彼には伝わらない。


まるで世界のことわりが変わってしまったかのように。

まるで魔法が解かれてしまったかのように。


そう。

私はピッピ。

黄色い羽の鳥。

鳥の言葉は話すけれど、猫の言葉は話さない。

もちろん、人間の言葉もね。


そんな当たり前のことに気付いていなかった。


だから――


私、勘違いしていたの。


マーチンの言葉も。

肉屋の店主の言葉も。

屋敷のご主人の言葉も。

そして、ジミーの言葉も。


分かっていると勘違いしていた。


だから――


私を仲間と呼んでくれたハリーの言葉も。

分かっていると勘違いしていたの。


ぜんぶ私の勘違いだったの。



西の空に日が沈み、静かに暗闇が広がっていく。

部屋に灯りはない。

ときどき灰色の猫がこちらの様子を覗っている気配があるけれど。

暗い所が苦手な私の目には薄ぼんやりにしか見えないの。


パチンと音がなり、部屋の照明が付いた。

ベッドに箱座りしていた灰色の猫と目が合った。

やっぱり彼は私を見ていたのね。


「ニャッ」


ベッドから降りた彼はジミーの足にすり寄っていく。


「ニャーゴ……」


ジミーに頭と背中をなでられて、気持ちよさそうに鳴いた。


「ハリー、おまえのご飯はもう少し待っていろ! 」


ジミーは彼に何か言葉をかけた。

でも……

その言葉の意味は分からない。


ジミーが木製のお皿を持って近づいてくる。

そして、鳥かごの小さな扉を開けて、


「さあ、ギルチョッパー! 食え! 晩ご飯だぞ!」


スプーンに山盛りの幼虫。

食べろと言っているのね。


私はクチバシでつまんでゴクリと飲み込んだ。


「……どうしたギルチョッパー。元気が無いな。病気なの?」


ジミーは鳥かごのをのぞき込んできた。

不安そうな表情。

何を言っているかは分からないけれど……


「ピキィ(がお)――!」


私は胸を反らして雄叫びを上げた。


「いいぞギルチョッパー! さあ、もっと食え!」


ジミーはスプーンからこぼれるほどの山盛りの幼虫を差し出した。

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