第18話〔奪還!!〕
第18話〔奪還!!〕
そして、いよいよ運命の日がやって来た。
村の入り口には、鎧を纏ったオリアン達が集結し、作戦決行を、今や遅しと待ち構えていた。
その顔は、昨日の笑顔とは違い、全員精悍な顔つきであった。
僕が考えた作戦は、こうだ。
オオカミ族以外の獣族を橋の回りに集め、いかにもこれから攻め込みます。という雰囲気をかもし出す。
ラウクン王子率いる軍隊を、そっちに注目させている間に、僕とオリアンを乗せたドラゴンが、オオカミ族の半分を荷車に乗せ、空から街に運び、ラウクン王子の後ろから挟み撃ちにする。
そして、空の苦手なファン率いる残りのオオカミ族は、新しい橋の出口に待機し、国王達の馬車が全部出たのを確認したら、1番後ろの馬車から順番に、確実に仕留めて行くという作戦だ。
僕は、オオカミ族を街に降ろした後、そのままドラゴンに乗り、国王の馬車群の先頭に降ろしてもらい、片っ端から馬車を止めて、ミウを捜すつもりだった。
オリアンには、ドラゴンと共に、ラウクン王子に本当の事を伝え、無駄な犠牲は出さないようにして欲しいと頼んだ。
その頃、城の裏では多数の馬車が待機し、出発の号令を待っていた。
と、その時、シクサードの所に駆け寄る、1人の衛兵が居た。
「ダメです!居ません、シクサード様。『ティージーの店』には、チェスハはおろか、親父も居ませんでした。」
国王は、時間になっても集合場所に現れないチェスハを、衛兵に捜しに行かせたのだ。
「国王様、どのようにいたしましょう?」
報告を受けたシクサードが国王に尋ねた。すると国王は、
「くそ!あの小僧め!チェスハに何か吹き込んだな!
ふん、まあよい。楽しみが減るのは残念じゃが、女は売るほどおるんじゃ。チェスハは、『ジプレトデン』の奴等に置き土産としてくれてやるわ!
このまま時間通りに出発じゃ!」
「は!かしこまりました!
よし!出発!」
すると、1人の衛兵が全員に聞こえるように、ホラ貝を吹いた。
「ブォ~ォォォ~~!」
「バシッ!」「バシッ!」「バシッ!!」
あちこちで手綱を打つ音が聞こえ、馬車が一斉に走り出した。
そのホラ貝の音をキッカケに、橋の回りに集まった獣族は、大声をあげ橋に向かって突進した。
「ウオオオオオぉぉぉ~~~!!!」
と、同時にラウクン王子も一斉に橋に向かって走り出した。
「奴等を1歩も城に近づけるな~~~!!!」
「おおおお~~~!!!!」
すると、それを見た獣族達は、
「よし!退け~!!!」
突進していた歩を止め、元居た場所まで下がった。
するとラウクン王子も歩を止め、湖を挟みにらみ合いが続いた。
しばらくすると、また獣族が大声を出しながら、橋に向かって走り出した。
「オオォォォ~~!!!!」
するとラウクン王子も、
「突撃~~~!!!」
「ウオオオオオ~~!!」
すると、また獣族は引き返し、陣形を整えた。
その頃オリアン達は、城の衛兵に気付かれないように高い高度で東回りで街に近付いていた。
街の外れまで来た時、高度を下げると、下で手を振っている人物が居た。
真っ赤な鎧を身に纏い、両手を大きく振り、何か叫んでいるようだった。
更に近付いてみると、
「お~い!タロン~~!!」
「ん??」
僕は目を凝らしてその人物を見た。
すると、隣に乗っていたオリアンが、
「あれは…『真紅の猿姫』…」
「『真紅の猿姫』?」
僕は初めて聞く『通り名』に、改めて真っ赤な鎧の人物を見た。
「お~い!お~い!タロン!早く降りて来~い~!!」
しかし、その人物は僕の名前を呼び続けた。
しかも、なんだか聞き覚えのある声だ。
僕達は、その街の外れに荷車を降ろし、その人物に駆け寄った。
オリアン達は、その人物と一定の距離を置き、それ以上近づこうとはしなかった。
しかし、その人物は僕にズカズカと近づいて来ると、
「まったく、何かとんでもない事をしでかすとは思っていたが、まさかオリアンと一緒に、しかも黒龍に乗って来るとはな。驚きを越えて呆れたよ。」
僕はその顔を見て、
「チェスハさん!?」
鎧を着ているせいか、印象がまったく違うので、近づくまでまったくわからなかった。
するとチェスハは、
「お前が『オリアン』か、初めましてだな。」
「ふん!「初めまして」だと?ずいぶんと仲間が世話になったようだが?」
「いや~、悪い悪い。その時は、まだ何も知らなかったからな。」
僕は、なにがなんだかわからず、
「チェスハさん?これは一体?それにその格好…」
「これはな…」
「こいつは城の用心棒みたいなものだ。」
オリアンがチェスハの言葉を遮るように喋り始めた。
「真っ赤な鎧で、猿みたいにすばしっこくてな、付いた通り名が『真紅の猿姫』。
ことごとく俺達の作戦を潰しやがった。
1度会いたいと思っていたんだが、俺が到着する前に、必ず居なくなるからな。」
「当たり前だろ、誰が好き好んで負ける戦いをするんだよ。
それしても酷いだろ?女性に向かって『猿』だもんな。」
「チェスハさんて、戦えるんですか?」
「当然!伊達に武器屋の娘はやってないぞ。
そんな事は、どうでもいい。国王をボコボコにするんだろ、あたしも連れて行け!」
オリアンは、ハッと思い出したように、
「そうだ、今は時間が無い。お前とは、後でキッチリ話を付けてやる。」
「ああ、いいぞ。あたしも1度ゆっくり話がしたかったんだ。」
チェスハは艶かしい瞳でオリアンを見つめた。
オリアンは、赤くなったのをごまかすかのように、部下に大声で命令した。
「よし!お前たち!城の連中をブッ叩くぞ!」
「おお~~!!」
そして、オリアンの部下達は、ラウクン王子の背後から奇襲をかけた。
まったく予想もしなかった後ろからの攻撃に、王子の部隊は、橋の上に追いやられてしまった。
橋の入り口と出口を押さえられたラウクン王子は、なすすべも無かった。
その頃、ファンの部隊は、作戦通りに、馬車群の背後から馬車を襲い、人質を救出していった。
「俺達も行くぞ!」
オリアンがドラゴンの背中に飛び乗った。そして、右手を伸ばし、
「ほら、つかまれ!」
チェスハは「コクン」と頷くと、手を握りオリアンの隣に座った。
僕がオリアンの後ろに乗ったのを確認すると、ドラゴンは、あっという間に大空に飛び立った。
すると、チェスハが
「これからどうするんだ?」
「僕が馬車の先頭に降りて足止めをしようと思っていたんですが、チェスハさん、頼めます?
僕は真ん中から、ミウを探します。」
「ああ、いいぞ!国王だけは、絶対に許さない!」
その言葉を聞いたオリアンは、
「『猿姫』の戦い、特と見せて貰うか。」
「ふ、華麗な舞いに惚れるなよ。」
「バ、バカヤロウ、誰がお前みたいな男おん…」
その時、風に煽られドラゴンが揺れた。
「キャッ!」
「ガシッ!」
よろめくチェスハをオリアンが抱き締めた。
「へ~、なかなか優しい所もあるんだな。」
「う、うるさい!」
照れるオリアンに、チェスハは、そのまま体を預けた。
「あ!見えた!」
僕は、馬車の土煙を見つけ指を指した。
そして、あっという間にに馬車群に追い付くと、下ではファンが手を振っていた。
僕は、スッと立ち上り、
「それじゃ、オリアン、チェスハさん。あとは頼みましたよ。」
そう告げた瞬間、僕はドラゴンの背中から飛び降り、土煙の中に消えて行った。
「お、おい!タロン!マジか!?おい!オリアン!あいつ飛び降りやがったぞ!」
するとオリアンは、平然とした顔で、
「あいつの事をいちいち驚いていたらキリがない。お前もそう思ったんだろ?」
「ああ…ま、まあな。」
「見えた!先頭の馬車だ!頼んだぞ。俺達の仲間を助けてやってくれ。」
オリアンはチェスハに頭を下げた。
「まかせろ!絶対に助けてやる。」
チェスハとオリアンは拳と拳を合わせた。
黒龍が馬車の先頭に降り立つと、馬達は一気に怯えだし、立ち止まってしまった。
すると降り立った黒龍は、すぐに大空に舞い上がり、土煙の舞う中、真っ赤な鎧のチェスハが、鎧と同じ、真っ赤な棍棒を右手に、仁王立ちしていた。
「ここから先は、『猿姫』の名に懸けて1歩も前には通さん!覚悟しろ!!
おおおおおお~~~!!!」
そしてチェスハは、棍棒を振り回しながら、先頭の馬車に向かって、突っ込んで行った。
チェスハが、馬車に向かって行くと、隊列を乱した馬車達が、右往左往し、バラバラに散って行った。
「お、おい、こら待て!」
チェスハは、1番近くに居た馬車に飛び乗り、乗っていた衛兵達を殴り倒し、荷台の中を覗き込んだ。
すると中には、オリアンの言ってた通り、6人の女性が手足に鎖を付けられ、座らされていた。
驚きながら、怯える女性達に、
「大丈夫だ!助けに来た!」
そう告げると、チェスハはすぐに、気絶している衛兵から鍵を取り、近くに居た女性の鎖を外し、その女性に鍵を渡した。
「おい!お前、馬車は走らせられるか?」
するとその女性は、震えながらも小さく首を縦に振った。
「よし!それじゃ、みんなの鍵を外したら、その鍵で、コイツらに鍵をかけて外に放りだせ。それから、馬車で引き返えせ。
街には戻らず、湖のほとりを回って、獣族の村に向かえ。出来るな?
チェスハは乗っていた女性達を見た。
すると女性達は大きく頷き、「はい!」と答えた。
すると1人の女性が、
「あ、あの、ありがとうございます!」
するとチェスハは、
「礼なら、オリアンに言いな。」
その言葉に、オリアンの悪い噂しか聞いたことのなかった全員が、ビックリしたが、国王の本性を知った今では、感謝の気持ちしかなかった。
チェスハはすぐに、荷台の後ろから顔を出し、辺りを見回した。
馬車群の真ん中辺りで、大きな土煙が舞っている。
「ハハハ、タロンも派手にやってやがる。」
そして更に見渡すと、少し後ろに居た一回り大きな馬車だけは、4、5台の馬車に回りを囲まれ守られていた。
チェスハは迷うことなく、その馬車に向かって走って行った。
「あれか!このクソじじいめ~!!」
すると回りの馬車から、一斉に衛兵達が降りてきて、チェスハの前に立ちはだかった。
もちろん、シクサードが衛兵達の先頭に立っていた。
「おい!シクサード!国王を差し出せ!!そうすればお前達は痛め付けずに済ませてやる!」
するとシクサードは、自分の体と同じぐらいの大きな剣を地面に突き刺し、
「チェスハ、残念だよ。お前とは、これからも上手くやって行きたかったんだがな、お前の店の『剣』は見事なもんだ。
お前の体に傷をつけるのは忍びない、今からでもこっちに来ないか?」
「何をバカな事を、売り飛ばされるのがわかっていて、戻るバカがどこにいる。」
「それじゃ仕方がないな、動けなくなるまで痛め付けてから、連れて帰るとしよう。」
「出来るものなら、やってみやがれ!」
するとシクサードは、衛兵達に、
「おい!相手は1人だ!見事チェスハを倒した者は、1晩チェスハを好きにしていいぞ!」
その言葉に奮起した衛兵達は、一斉にチェスハに飛びかかった。
その頃、僕はミウを探しながら、1台1台馬車を止めて回っていた。
しかし、その記憶も曖昧で、あまり覚えていなかった。
ドラゴンから飛び降りた所までは、ハッキリと覚えているが、
降りている途中、ミウの事で頭が一杯になり、がむしゃらにミウの乗っている馬車を探していたのだ。
後でファン達に聞いた話によると、「黒い竜巻が1台1台、馬車を襲っているように見えた」と言っていた。
襲われた馬車は、必ず衛兵達が宙を舞っていた。とも言っていた。
「ミウ~!!!」
僕は叫びながら、馬車を止めて回った。
そして、その声に反応した馬車が1台居た。
黒龍が登場し、馬車がバラバラに走り出した頃、ミウは急に揺れが激しくなった馬車の中で、家族で肩を抱き合い、必死に揺れに耐えていた。
そんな中、微かに聞こえる聞き覚えのある声が、ミウの耳に届いた。
「ミ~ウ~~!……」
「タロン!?ほんとに?タロンなの?」
ミウはすぐさま荷台の横に付いている窓から顔を出し、大声で叫んだ。
「タロン!!タロ~ン!!」
その声は、僅かだが確かに僕に届いた。
「ミウ?ミウ~!!!」
僕は声のする方向を見たが、走り回る馬車の土煙でまったく何も見えなかった。
そこで僕は、1度大きくジャンプをした。
そして改めて、声のした方向を見ると、
「居た!」
馬車の窓から頭を出し、必死に叫んでいる、真っ白な髪の少女の姿だ。
「ミ~~ウ~~!!!」
僕は1度大きく叫ぶと、地上に降りるやいなや、ミウの乗っている馬車に、一直線に進んだ。
僕が馬車に着くと同時に、乗っていた衛兵達は全員、宙を舞っていた。
「ミウ!大丈夫か!」
僕は荷台に駆け込みミウを抱き締めた。
「ああ…タロン…良かった、生きてて良かった…」
その時、僕はミウの服がボロボロなのに気が付いた。
「ミウ、ごめんね、遅くなった。」
「ううん、いいの。タロンが来てくれただけで、嬉しいの。」
すると、一緒に乗っていた男性が、
「ミオルン、このお方は?」
「タロン!伝説の勇者タロンよ。お父さん。」
そしてミウは、家族を紹介してくれた。
「タロン、紹介するね。お父さんとお母さん、それから、弟の「ラク」と妹の「スン」。」
すると弟のラクが、
「お兄ちゃん、勇者なの?」
と、聞いてきた。いつもなら曖昧な返事をする僕だったが、今回は頭にきていたので、
「そうだよ。お姉ちゃんを、みんなを助けに来たんだ。」
と、ラクの頭を撫でながらいった。
そして、みんなの手足についていた鎖を素手で引きちぎり、
「さあ、村に帰ろう。」
と、カッコよく決めたつもりだったが、素手で鎖を引きちぎる光景をミウが1番ビックリした顔で見ていた。
「ミウ、チェスハも一緒に来てるんだよ。それにオリアンも。」
「え!?チェスハが?」
「うん、真っ赤な鎧を着て『猿姫』だって。ビックリしたよ。チェスハがあんなに強いなんて。
「国王に蹴りを食らわせたいから、一緒に連れて行け」ってね。」
「良かった、チェスハも一緒に連れて行かれてるのかと思っていたから…馬車には乗ってないのね。」
「うん、僕がドラゴンに連れられて、湖の外に行ったとき、オリアンと知り合って、国王の悪巧みを聞いたんだ。
それから街に帰ってすぐにチェスハに「遠征には絶対に行くな」って釘をさしておいたんだ。
城にも行ったんだけど、「ミウは出かけて留守だ」って言われてね…」
「そ、そんな…私は「タロンが死んだ」って聞かされて…」
「僕達は、まんまと国王の罠にはまったってわけだな。」
「で、でも私はラウクン王子に聞いたのよ、タロンが死んだって」
「王子は何も知らないみたいなんだ。今回も城の捨て駒になってるみたいなんだよ。」
「ひ、酷い!自分の子供まで利用するなんて…」
「とにかくここは危険だ、ひとまず離れよう。」
僕が馬車を方向転換しようとした、まさにその時、地面全体が揺れるような地響きと、真正面から地平線を覆い隠すような、土煙を巻き起こしながら、こちらに進んで来る軍隊がいた。
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