25話 狗神と九尾2
九尾は扇を閉じ、狗神は札を手にしたまま刀に手をかけお互いを見つめる。2人は殺気で覆われていて少しでも下手なことをするとこちらが殺されてしまうんじゃないかと思うほどだ。
九尾は相変わらず笑みを絶やしていないが、狗神はお面をしていて表情が伺えないが多分、戦士の顔をしているはずだ。
先に動いたのは僕の予想に反し九尾だった。
(え?先に動けば、狗神の刀が首を刎ねるのに何故だ?九尾は火をメインに使うのを見たが、あの扇は刀でも切れないのか?なら接近戦の方が有利か)
僕の思った通り、九尾は抜刀した刀を扇でガードすると自分の腰に手を回しもう一つの扇を出した。その扇は今、刀と競り合っているのと色が違い青色の扇だった。
「これは初めてだろ!前はまだ持っていなかったからな!」
九尾は青色の扇を閉じたまま階段に落とすと、触れたところから凍り始めた。それは段々と狗神の足を凍らし動けなくさせた。だけど、それは九尾も一緒だった。
「お前も固まってどうする!自分の能力で動けないとは愚かなことだな!この距離なら私の術圏内。この勝負貰った!」
狗神がそう言った瞬間、手にしていた札を九尾の額に貼り術を使うはずだったがいつの間にか札は消え九尾は狗神と距離をとっていた。その行動は絶対に人の目では見ることの出来ないほどの早さで狗神は驚き戸惑っていた、だが、九尾は最初から使っていた赤の扇を広げ優雅にあおいでいた。その様は「強者の余裕」という言葉そのままだった。
「この程度で驚くとは、腕が落ちたな。私からすれば今のが当たり前の行動でもう既に対処方法が思いついていて欲しかったけど、ダメみたいだな。昔は私と同じ位の強さだったはずなのに、いつから弱くなったんだか私はがっかりした。がっかり代として死ね」
九尾がそう告げた瞬間、空気がとげとげしくなった。先ほどの何百倍という殺気が九尾から漏れているからだろう。この戦いを見ているだけの僕達は吐き気がしてきて立つのがやっとだ。
(なんだよ、この殺気。こんなのがこの世界にいるのか……)
僕は立っているのが辛くなり倒れるように座ると同時に隣にいる笙も座り込んだ。
「あの九尾がここまで強いって驚いた……」
「あのってどういうことだ?」
「九尾自身はランキングではかなり下の方にいるの。ほとんど、九尾の主が倒してるんだけどそれでも隊員の中でも、九尾が強いと聞いたことがないの」
「そうなんだ」
僕が簡単に返答すると、九尾の腰から3つ目の扇が出てきた。その扇は赤でも青でもなくて、黄色をしていた。
(赤色は炎、青は氷だったけど、黄色ってなんだ?電気とかか?)
僕が考察していると、上から1人の女生徒が下りてきた。その女生徒はしっかりと九尾と狗神を見て、口元が少し笑った。
「邪魔をするなよ。今からこいつを消すから。待ってて、主様」
主様と言われた女生徒は毛際が黒色で毛先が茶色とかなり変わった髪色をしていて手には筒を持っていた。
その筒が何なのか分からずにいると女生徒は座っている僕の横に来るといきなり倒された。
いきなりの展開に驚く僕を見て女生徒はくすくす笑うと、馬乗りになり手にしていた筒を思いっ切り握ったかと思えば、筒が伸び鎌の形に変形した。
「お前、人間と妖怪の血が半分ずつ入っているね?どうしてかな?混血なんて生まれるわけないのに、現在こうして無様に私に馬乗りにされているお前は何なのかな?私、分からないな~教えて」
女生徒は鎌を僕の首筋にあてながらここにいる奴以外に話していないことをさらっと言われた。
「……」
「う~ん。だんまりか~喋らないならもういいや死んで」
「わ、分かったから。話すから待ってくれ」
「いいよ~」
「天邪鬼!」
僕がそう叫んだ瞬間、女生徒の後ろから天邪鬼が跳んできた。手に武器の大剣を持って。
「従僕に何をしてるんだ!おりゃー!」
天邪鬼は大剣を振り降ろすと女生徒は鎌の柄で斬撃を防ぎ、僕の首筋に当てられていた刃を天邪鬼目掛けて普通に振ると天邪鬼は躱しながら女生徒の懐に入ると隠し持っていたナイフを腹に突き刺した。
「そんな大きな武器を持っているから、てっきり強いのかと思ったけどそこまででもなかったね。従僕だいじょ――ってこの状況は何?狐の人、すごく怖いよ」
「天邪鬼、邪魔しちゃダメだ。今は大事な決闘の最中だから。静かにし――」
「え……」
僕は自分の目で左腕を切断されたことに気づいた。肩からをおびただしい量の血が噴き出し階段を赤く塗らす。そして、肩からの出血が収まって来ると徐々に意識が遠のいていく。
(あ~あ。また死んじゃうのか……流石にこの出血の量は鬼の力を使っても無理だ……)
虚ろの目で見た風景は全てが赤く染まった、鮮やかな世界だった。
「……ここは……どこだ……暗くて何も見えない。死んだんだよな?」
僕は辺りを探ろうとするが、右腕しか動かなかった。右腕で左腕があるところを触ると、肩から先が綺麗に無くなっていた。傷口だと思われるところに触れると、肉のグニュっとした感触と骨の感触がしたが何故にか痛みが無かった。
僕は立ち上がろうと足に力を入れようとするが、うまく力が入らなかった。
「ど、どうしたんだ?足に力が入らないってなんでだ?目が見えないから原因が分からない」
動く右腕で懸命に辺りを触ると足みたいのに触れた気がし、掴むと「キャ!」と女性の声が聞こえた。
「すいません!そこに誰かいるんですか?僕、目が見えなくて分からないんです」
僕がそう言うと、女性と思われる人が近づいてきた気がした。
「貴方って鬼と人間の血が半分ずつ入っているんだね。こんなのもいるんだ~で、どうしたいんだ?」
「目を見えるようにしてほしいのと、足に力が入らないのでそれをどうにか……」
「分かった。少し待っててね」
女性は僕の目の周辺を触ると、何かを言った。すると、目に温かいのが伝わって来て段々と目の前が見えるようになってきた。
僕が今いる場所は、何も無い空間だった。机やイス、ベッドも無ければ窓も無い不思議な空間だ。
「ここってどこなんですか?」
「ここ?ここは、封印部屋って言って妖怪を能力で別空間に飛ばして封印するの。で、飛ばされると必ずこの部屋に来るの。……はい!足も治った」
僕は再び立ち上がろうと足に力を入れると、今度はしっかり力を入れることが出来た。
「立てた。ありがとうございます。名前を聞いても?」
「私は百鬼夜行って言うの」
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