作品が誕生したきっかけ
記念すべき第一回目の裏話は、今作『命の天秤』を執筆するきっかけについてです。
おそらく多くの作者さまは、一番最初に「どんなストーリーにしよう、どんなジャンルがいいかな?」といった形から入ると思います。ですが私の場合は少し事情が異なっており、『命の天秤』の終盤で公開している詩を一番最初に作りました。
その詩の内容は、こちらになります。
『命の天秤』
足音叩くと 誰かの歌が流れる街
ハムサンド頬張る 無邪気な笑顔
見える気がした
通り雨のように 降り注ぐ朝日が
眠った哀しみ また呼び起こす
琥珀色の滝に心休めると
バスタブで髪を
優しい気持ち溢れるの
あの時“好き”だと言ってくれた
太陽と月が 見張りを交代した時
命の天秤は 寄り添いながら
切なさ揺らす
夢心地な声で 面影へ祈っても
あなたの心は 振り向かないのね
寂しさの海に眠る この体は
青空へそっと向かうけど
想い出は
あの時“好き”だと言ってくれた
時の迷い人の声に 誘われて
天使の温もり 置き忘れ
あの時”好き”だと言ってくれた
上記の詩の内容を元に、私の頭の中でイメージを膨らませてから、
「こんなジャンルがいいかな? 結末はこんな感じかな? 登場人物はどうしよう?」
ということを意識して、『命の天秤』という作品が誕生しました。
余談ですが、私は頭の中で色々と物語を想像することが好きです。その影響かどうかは分かりませんが、音楽番組やネット上で流れている歌を聴き詞を読むと、
『……この詞の内容だったら、こんなストーリーがいいな』
と思い描かれることがあります。
例えば『世界に一つだけの花』という歌をモチーフにした場合には、こんなストーリーが良いと思います。
『ひっそりと咲く花のように(仮)』
都内でも有数のスポーツ高校の陸上部に所属する高校一年生の望月
大きな夢を持つ葵を支えているのが、小学校時代からの親友 藤沢
実は香織も数週間前に市内で行われている、絵画コンクールに応募した。だが惜しくも落選となり、その結果にどこか満足していない素振りを見せる香織。
そんな彼女を何とか元気づけようと、雨の日も……雪の日も……練習に励む葵。そして自分が好成績を収めた暁には、二人で一緒にお祝いをしようと約束までしている。
そして短距離走の予選当日――この日のために頑張ってきた葵は、その成果を多くの友人や家族らに見せるチャンスだ。とにかく無心で懸命に走り続けた。
だが日本全国大会出場の壁は高く、葵は惜しくも上位入賞を逃してしまった。自分と上位との差は数秒もあり、
『自分はこれまで、何のために頑張ってきたの? こんな無様な姿を見せて……家族や友達、そして香織にどんな顔をして会えばいいの?』
一人待合室でひっそりと涙する少女の姿があった。
短距離走 予選も無事終わり、選手たちは自分たちを応援してくれた者の元へ駆け寄る。そこで葵は大会で上位成績を収めた、少女たちの嬉しそうな横顔をみてしまう。
『……あぁ、このまま香織に何も言わずに帰っちゃおうかしら?』
一人空の上を見ながら
「……お―い、葵! 今までどこにいたのよ!? スマホにも出ないし……心配したんだからね」
自分の名を大きな声で叫ぶ香織が、息を切らしながらやってきた。
「う、うん。ごめん……」
「? 変な葵。……まぁ、いいわ。さぁ、帰りましょう」
時刻は夕暮れ時となり、葵と香織は自宅近くの公園へ向かう。そこで二つ並んでいるブランコへと座り、”ゆらゆら”体を揺らしながら風の声を聞き、風の温もりをその肌で感じている。いつものように明るい香織とは対照的に、葵の表情にはどこかしら陰りが見える。
「……ごめんね、香織。あなたのために、予選で良い成績を取ろうと思ったんだけど……」
親友と一緒に喜びを分かち合えなかったことが、葵には耐えられなかったのか? ブランコに揺られながら、思わず心の声が出てしまった葵の心。
だが葵の不安が嘘に思えるかのような、いつになく満面の笑みを浮かべている香織。“何がそんなにおかしいの?”と、彼女の表情に不安と不満を覚える葵。そんな彼女の気持ちを察したのか、
「カッコ良かったよ、葵」
「……えっ!? い、今何て言ったの?」
香織は自分の心の中で思っている言葉そのままを、葵の心に返した。
「ふふ、何回でも言ってあげるよ。今日の大会で思いっきり走っていた葵の姿……とても素敵だった!」
「ちょ、ちょっと待ってよ、香織!? 私はそんなに素敵じゃないし。それに私は予選にすら通過出来なかったんだよ……」
予選通過や賞を取ることに目が向いている葵に対し、“結果を残すことが大切ではなく、自分が思いっきり楽しむことが重要なのよ”と優しく語る香織。これは香織が絵を描くことにおいて、常に意識していることでもあった。
ここで初めて、自分がいかに小さい人間であるかを知った葵。そう考えた瞬間、
「……何だ、私ってバカみたい。目先のことしか考えていなくて、走ることの楽しさを忘れていたなんて!」
彼女はお腹の底から声を出しながら笑う。時折悔し涙を流しながら……
心の迷いが消えた葵の姿を見た香織はブランコを下り、公園の花壇に咲く一輪のゼラニウムの花にそっと触れる。
「ねぇ、葵。このゼラニウムが持つ花言葉の意味って……知ってる?」
運動神経については香織より上だが、勉強のこととなると彼女に頭が上がらない葵。もちろん花言葉についても知識はなく、ただ首をふるだけ。そんな彼女の顔を見て笑みを浮かべながら、
「君ありて幸福、っていう意味があるんだよ。私は純粋にスポーツに向き合い、純粋に走ることを楽しむ葵のことが……好きだよ。だからね、私には葵が予選で落ちたことなんて、全然気にしていないのよ」
ゼラニウムの花言葉について、熱く語る香織だった。
そして香織が公園に咲くゼラニウムの花々を指さし、花のじゅうたんを眺める葵。
「みんな同じに見えるゼラニウムの花でも、良く見ると花びらの数とか色がみんな違うのよ。……ほら見て、この景色。遠くから見るとこんなに綺麗なんだよ!」
葵の手を優しく握る香織は、そのまま公園の滑り台の上へとかけのぼる。そこから見えるゼラニウムの花畑は、まるでお花のカーペットが
「葵、人もお花も結局は同じなのよ。別に一番にならなくても……誰にも注目されなくても……このゼラニウムたちはこんなに綺麗に咲いているの。個性豊かなお花たちがお互いの長所を活かしつつ、自分の居場所を守っているの。だから“自分は情けないとか、私に合わせる顔がないわ”なんて悲しいことは言わないで!」
小鳥たちが旅立ちの声を奏でる時、オレンジ色のカーテンが葵を包み込み、薄着をしていた心にベールを羽織る。
完
『世界に一つだけの花』という曲を聴き詞を読むと、私にはこのような世界観があるように思えてなりません。このような方法で私は『命の天秤』という作品を執筆し、作品に命を吹き込むことが出来ました。
次回の裏話は『命の天秤』の詩の内容について、少し触れていきたいと思います。
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