第25話 ~街道で~
獣国を出発して何分か経つと僕はアリスに声を掛ける。
「まだ怒ってるのか?」
「……」
「だからお前が勝手に裸になってただけで僕は何もしていないって何度も説明しているだろ」
「……」
「一体何に怒ってるんだよ」
「……」
はぁ~、宿屋を出てからずっとこの調子だ。
朝床から目覚めると何故か全裸のアリスが鬼の形相で僕を殺す様に睨んでいた。
一瞬で状況を把握した僕は勿論、
数十分にも及ぶ討論の末、アリスの行き着いた答えが無視、らしい。
何で何もされていないのに不機嫌になっているのか僕には疑問でしかない。
疑問と言えば、朝から天妖精の姿が見かけないな。
まぁこれに関しては割りとどうでも良いので放置だな……それより今はアリスの方を早めに対処しなければならない。
でないと何時自分に八つ当たりが来るか気が気でない。
……とは言ったものの話し掛けても無視する相手に対してどう対処すれば良いんだよ。
「ホントに……」
頭を悩ましていると隣から霞む様なアリスの声が聞こえる。
「ホントに……何もしなかったの?」
「だから何もしてない」
「何も?触ったりもしてないの?」
「してねぇよ」
「そう……」
何で触って無いのに落ち込むんだよ。
「何も感じなかったの?私の裸を見て」
「はぁ?何言って……」
何時もとは違う独特の雰囲気に調子が狂う。
アリスが何を求めているか分からないが、変に嘘を付くより正直に言った方が良いだろう。
「まぁ何も感じなかったって言えば嘘になるな」
「……え?」
僕の言葉に間の抜けた声を出すアリス。
「何だよ、僕だって一応男だ、女の裸を見て無関心の訳あるか」
当たり前だ、こちとら思春期真っ盛りの高校生だっつうの。
「ホントに?どんな事感じたの?素直に言って」
「どんな事って……そうだな~って言うか」
女の裸見て何を感じたか、それを本人の前で言えと?
どんな新手の拷問だよ。
「言って!言わないと殴るよ?」
「笑顔で脅すな」
まったく直ぐに実力行使になるところは直した方が良い。
はぁ~そんなんじゃ何時まで経ってもって……
「分かった言うから、その振り上げた腕を降ろせ」
危ない気付くのが後一秒遅かったら今頃は地面に倒れていただろう。
「まぁ何だ……綺麗だと思ったかな」
「ッ~!」
おぉー、茹で上がった蛸の様に真っ赤になるアリスが面白く更に続ける。
「後は、お前って案外スタイル良いんだな」
「……どんな風に?」
「どんな風にって、凹凸の無い真っ直ぐなか…ぐへぇ!」
言い終わる前にアリスの手刀が僕の腹へと突き刺さる。
強化してなくてこれかよ……アリスの強さの一端を知った僕を余所に更に不機嫌になった感じのアリスが仁王立ちで僕を睨む。
「凹凸の無い?真っ直ぐな?それって私の事かしら?」
「いやお前しか居ないだろ、てか言われた通りにしたのに何で怒ってんだよ」
「そ、それはアマミネが……」
痛い所を突かれたのかアリスの声が萎む。
たく……何なんだよ一体。
「……あ!なるほど」
「何よ」
「アリス、幼児体型でも、そういうのが好きって奴も居ると思うし、別に気に病む事じゃないぞ」
僕としてはとてもどうでも良い案件だが女というものは胸の大きさ酷く敏感と聞いたことがある。
アリスみたいな痴女でも一応女だ、気にしていたのだろう。
僕が言って説得力があるかどうかは分からないがこれでも男だ、多少なり効果はあるだろう。
「だから大丈ぉぶぅ!!!!」
「誰がそこまで素直に言えって言ったのよ!」
アリスの強化された右ストレートが僕の腹、しかも鳩尾へと突き刺さる。
息ができなくなり込み上げる嘔吐感が僕を襲う。
修行で殴られ慣れているとは言いたくないが鳩尾への一撃は何時受けても痛い。
「ふ~治まった」
「……」
「怒りの方は治まってないのかよ」
「……わよ」
「何て言った?」
ほとんど耳に入ってこなかったので聞き返すと、
「許すわよ」
凄く納得いかなさそうな顔で許しが出た。
結局何に対して怒っていたのか不明なままだが、これで八つ当たりが来ることは無いだろう。
まぁ八つ当たり以前に、腹に二回手刀を入れられているが……
「それでアリス、何処に向かってるんだ」
「温泉」
「いや国名で頼む」
「アクリス王国」
アクリス王国か……確か地図あったよな。
魔法のリュックから一枚の紙を取りだし場所を確認する。
僕たちが居るのが獣国アニトル街道周辺でアクリス王国はっと………………
「おいアリス、この地図が正しければアクリス王国までの道のりが凄く険しい様に見えるのだが」
「そんな事無いわよ、現に観光場所として多くの人達が訪れているわ」
「今進んでいる道からアクリス王国まで行こうとすると通らなければならない地名だけで何回か死ねる気がする」
ここからアクリス王国までにラクトル鉱惨とラクトル砂爆という地名を通らなければならない。
漢字からして安全地帯では無いことは分かる。
言語解析スキルのバグと思いたいが他の地名はいたって普通だったので正常なのだろう。
取り敢えず、特徴点ぐらいはアリスに聞いておこう。
「ラクトル鉱惨ってどんなところなんだ?」
「鉱石が良く
「そうか鉱石が採れる場所か……」
いたって普通だな、話を聞く限り僕の知っている鉱山地帯と一緒だ。
「ラクトル砂瀑は?」
「とても
「暑いのか……水はアリスが出せるから心配はいらないか」
「?まぁそうね、魔力の無駄遣いはあまりしたくないけど危ないからね」
まぁこの世界に熱中症があるかどうかは知らないが備えはしておくべきだろう。
病気を治せる天妖精が居ない状況で熱中症になるのはごめんだ。
てかあいつ本当に何処行きやがった。
「アマミネ」
足を止め僕を呼ぶアリス……
「何だ?」
「あれ何か見える?」
「あれ?」
「ほらあそこの木の陰」
アリスが指す方向を見てみると、確かに誰か居る。
それが人なのかモンスターなのかは分からない。
「調べて頂戴」
「……はいはい」
自分も強化魔法使えるくせに……
文句を言いつつも目に魔法をかけ視力をあげる。
うん?あれは……人だな。
木を背にして寝ている、のか?
背格好からして男だろう。
「何が居たの?」
「男が寝ているだけだ」
「寝ている?こんなところで」
「僕に言われても知るか」
「他に変わったことはないの?」
「何故か全身赤い塗料で染まっているが、それ以外特に何もないな」
「そう……なら大丈夫ね」
安全を確認し、先を進むアリス。
暫くして、その寝ている奴の近くまで来た。
良く見ても、全身真っ赤で服がボロボロでピクリとも動かないだけなのだ別に大した問題は無あと判断素通りする。
そして薄気味悪い声が聞こえてくる。
「だ、だれか~」
「「……」」
声の聞こえる方向に居たのは、細目でこちら見ている全身真っ赤な男性だ。
面倒事にはもう巻き込まれたくないので聞こえないフリをする。
「た、たす、けて」
「「……」」
耳障りなので早く此処から立ち去ろうとする。
「そこの人!」
「「……」」
ついに、ピンポイントで声を掛けられた。
しかも何故かアリスが立ち止まってしまったので無視する事が出来ない。
仕方がないので遠くから話を聞くことにする。
「何だ?」
「え?何だって見れば分かるよね」
「……分からん、じゃあな」
男の言葉通り見たが、何を言いたいが皆目検討がつかないのでアリスを
「いやいや、全身真っ赤に染めて、服がボロボロなら少しぐらい察してくれても良いよね」
「……?」
「?」
「何二人同時に首を傾げるんだよ!分かるだろ!冒険者だろ!」
分かるだろって言われてもな……何を?としか言いようが無い。
だから叫ばれても意味がない、そして
「何で僕たちが冒険者だと分かったんだ?」
「ッそ、それは…身なりだよ!女の方はローブで魔法使いっぽいしお前は剣持ってるし!そんなの冒険者しかいないだろ!」
「なるほど、でお前は僕たちに何を察して欲しいんだ?」
このままだと埒が開かないので率直に聞く。
「怪我をしてるんだ、だから近くの国まで送ってくれないか?」
「元気だろどう見ても」
「精神的には元気だけど肉体的に怪我してるんだよ」
「外傷は無いようだが?」
「この血が見えないのか!?」
血?もしかしてこいつの体を染めている赤色の事か?
「それ血じゃないだろ、唯の染料だ」
「な、何でそんなこと言える」
「臭いだよ、お前からは鉄臭ささがない、それに心拍数も正常、脈拍も乱れなし……さて聞くがお前は何処を怪我しているんだ?」
純粋な疑問だった。
ここを通る時に僕は視覚以外にも聴覚、嗅覚を強化魔法で向上させておいのでこいつが何処も悪くない事は既に確認済みだ。
だから「だれか~」やら「たすけて」やら言われても無視するのが当然だ、何故ならこいつは元から普通なのだから。
「おい、黙ってないで何か言ったらどうだ?」
「くそっ!!おい!出てこい!!もう面倒だ!力付くでいくぞ!」
ヤケクソになったのか急に叫び出す男……だが何処からも何も反応は無い。
「おい!どうした!早く来いよ!」
「なぁ」
「何だ!?」
「お前の心拍数が測れる僕が後ろに隠れていた奴等に気付かないと思ったか?」
「ツ!」
意味が分かったようで男は青ざめている。
「仮に分かったとしてそれが何だ!お前たちが此処に居る時点で俺の仲間には手を出せないはずだ!」
「此処に居るか……何処にだ?」
「はぁ!?だから俺の目の前だろ!頭おかしいのかお前!」
「頭おかしいのはお前だろ、なぁ|アリス
《・・・》」
叫ぶ男を無視して、僕は森の方角へと声を掛ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます