第13話 音楽と記号

 音楽を聞くという習慣がありませんでした。

 無音、が好きでした。


 頭の中の人の話がよく聞こえるから。

 頭の中にはAさんとBさんがいました。


 A,Bというのは、今、適当につけました。

 どちらも私です。

 私は人と話をしないぶん、頭の中で会話していました。


 人と話をするのは大嫌いだし苦痛でした。

 だから、いつも自分で会話していました。


 会話はただの記号です。記号の交換です。

 それなのに、私はそれがとても怖かった。

 渡されるものが爆弾ではないことは知っているのに、

 求められているものが魂でないということはわかりませんでした。


 私は世界を背負うほどに重いことを話さなければならないのだと思っていたんです。

 その覚悟を求められていると思っていたんです。

 人には求めません。

 人には期待しません。

 だって、人なんて、私にくらべたら何の価値もない、いてもいなくても関係ない塵のようなものだから。

 

 自分が特別だと思っていたから。

 自分が口から出す言葉が安っぽい、ただの記号であることは許されなかったのです。

 私は黙り込みました。

 私は私とだけ話しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る