第40話 不死性

「ほぁああああ、これはすごいぃ!すごいなんてものじゃない!レオくん。君の力は他人のソレイスを複製するものだったのか!!!」


 メルセデスは歓喜のあまりに涙を流していた。


「なんだ、そんなに珍しいものなのか?これ」


「あぁあぁ!もちろんだとも!君のような特殊な力を持っている生き物は私が知る限り君を除き16人しか知らん!」


「少ないんだか多いんだか微妙なとこだなそれ......」


 突然、扉の方からノックをする音が聞こえてきた。


「―――博士、エクイラが参りました」


 なんとも上品な聞き覚えのある声質が空間を満たしていった。


「おぉ!きたかエクイラ様。どうぞお入りください」


 あのメルセデスですら一度かしこまるような人物、扉が開きその人物が入ってくる。上品な佇まいに合わせてあまりに美しく白銀に輝く長い髪。あまりに端正な顔立ちは見るものを狂わしてしまうような印象を改めて抱く、その人物は先ほど地上でライブを行っていたあの張本人だった。


「あっ、あなたは......!本当にあの......エクイラ、様......」


 少々照れくささを覚えつつも、人生で初めて人を様付けで呼んだ。


「ふふふ......そんなに畏まらなくても大丈夫ですわレオ様。どうぞエクイラとお呼びください、そういえば先ほどステージに見に来てくださっていましたね、ありがとうございます」


「いえいえそんな。あっ、じゃあエクイラ......さん。えーと、俺の事を知ってるんですか?」


 初々しさが抜けないまま話をつづけた。


「えぇそれはもうちょっとした話題になっていましたから、博士も大層プレゼントを待つ子どものようにレオ様を待っていたのですよ」


 エクイラは口に手を当てながら優しく微笑んだ。


「ところでエクイラさんが何故このようなところに?」


「エクイラ様はここレジスタンスの総司令官補佐で居られるのですよ」


 背後にいたクライネが答えた。


「まじか」


「えぇ、それとわたくしも博士の研究に協力していますの。私の力が少しでもこの組織においてお役に立てればと思いまして」


「へぇ研究に協力を......って力?エクイラさんにも何か特殊な能力が?」


「えぇ、大変不幸な恩寵ですわ」


 エクイラは寂しげな眼差しでそれを言った。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 エクイラが実験室へと入っていく様子を傍から見守っていた。


「なぁメルセデス、彼女には一体どんな力があるんだ?もしかしてあんたが言ってた16人のうちの一人なのか?」


「うむ、そうだ。エクイラ様のディスパーダとしての力はいわば世界との拒絶とでもいうべきか。ディスパーダとしては珍しく一切の攻撃能力を有さない、そして原理不明の展開性のある干渉不可領域を限定的に身の回りに常に張り巡らせておる、少なくとも現地点では彼女に有効な兵器や能力は存在していないと言えよう。それに実験で分かったことだが、エクイラ様に如何様の武器を持たせても彼女の干渉不可領域がそれを使うことを許さない。あの力は何やら意志のようなものを持っていてコントロールができない。更に言えばどうやら生存に必要なエネルギーは彼女の内側だけの世界で完結しているようなのだ、つまりは仮にこの星がなくなろうとも生きているというわけだ。素晴らしい力であろう?」


 メルセデスは満面の笑みでこちらに顔を向けた。


「あぁ、まぁ要するに聞いてる限りでは単純に無敵ってこったろ?そんなすげー力なのにエクイラさんはなんであんなに......、なんというか寂しそうなんだ?」


「それはレオ君、のちにきみが直接聞いてやるといいだろう。君の噂が広がってからだろうか、なにも君の到着を待ちかねていたのは私だけではない、エクイラ様も同じくそうなのだ。エクイラ様は君に何か可能性を感じておられる、少しだけ寄りそってあげてくれたまへよ」


 メルセデスの語り口調は先ほどまでの狂気に満ちていた面影が消え去り、まるで家族か何かのようにエクイラを大事に思っているよう様子だった。


「ところでレオ君、君は自分の不死性といわゆるディスパーダの不死性との違い。理解しているかね?」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一通りの検診を終えたのか、エクイラが実験室から出てくる。


「それでは、私は今日はこの辺で失礼致しますわ博士。レオ様もこの度はお疲れ様です、レオ様のご協力に総司令官様に代わって感謝の意をここに捧げます。今度機会がありましたら是非レオ様の事について個別にお伺いしたいですわ。それでは」


「あぁこちらこそ!それじゃあ」


 エクイラは最後まで上品な佇まいを崩さずに、何人かの護衛を連れて研究室から退出していった。


「あのエクイラさんから個別のお誘いもらっちゃったよ!やばくねクライネさん?」


「えぇ、ある意味やばいですねレオさん。あまりそう言うことは言い振らすものじゃないですよ、エクイラ様は多くの者に慕われております故、その関係を揺るがすような立ち振る舞いだけはしなようにお願いしますねレオさん」


 クライネは鋭い目つきで釘を刺すような目線をレオに贈る、それを感じ取ったレオは得体のしれない恐怖に襲われる事となった。


「なんだなんだねいちゃいちゃタイムは終わったのかね?」


 メルセデスは心底あきれた様子で言う。


「ちげぇよ!」

「違いますよ」


 二人は同じタイミングでメルセデスの言葉を否定する。


「あぁあぁ仲がいいね君たちはねぇ、さてさてレオ君さっきの話の続きだがね?改めて聞くが君は自分の不死性が如何様にして特異的であるのか理解しているのかね?」


「―――いいや、あんまり」


「ふむ、そうだわな。では簡単に説明してやろう」


 メルセデスはそういうと奥に置かれていた電子ボードを勢いよく引っ張ってくる。

 そこには二人の人間の図が描かれる。


「まず、こっちが君。んでこっちが一般的なディスパーダとして事象を整理して比較する。君は最後に自分が死んだときの事を覚えているかね?」


「あぁ、それは覚えている。確かツァイトベルン時計台のときの事だろ?あんときに俺はレイロードとか名乗ってた少女に刺されて死んだ多分」


「だが、当時の君にとってそれは気を失った時と大して差がなかったんじゃないかね?」


「えーと、というと?」


 メルセデスは電子ボードに何やらを書き込むと、そこには一方の人体図の周りに複数の人間を配置し目線代わりの矢印を周囲の人間の頭部から線を引いていた。


「では質問を変えよう、そもそも君は何故自分が死んだと思ったのだね?」


「それは、明らかに致命傷を負ったからと......、いや。というより周りの人間に死んだと聞かされたからか?」


「その通---り!!!」


 メルセデスは大声で叫ぶ。


「君は死という体験を第三者の観測を経て初めて実感したのだ!でなければ君は実際には死んだと感じなかったかもしれない。そして、君の不死性というのは......死んで初めて自覚できるものだということなんだ!それが他のディスパーダと比べても全く異質であるという点なのだ」


 メルセデスは再び電子ボードに向かい、もう一方の人体図に何やらを書き込む。


「通常ディスパーダというのはね、こうやって人体に損傷を背負うとすぐ様に人体再生が開始される」


 そういいながら電子ボードでディスパーダの人体損傷を表現する。


「ディスパーダはいわゆる不死性を持つが、重傷を負うと回復が間に合わずに死亡するケースがある。特にココ、首を刈り取られてしまっては復活はかなり難しいねぇ復活するケースもあるが充分なヘラクロリアム濃度がなければ不可能だ。基本的に切断された部位は、近くに切断された先の本体があれば引き寄せるように繋げようとする。余りに遠すぎものは一から新しく作られる、しかしその場合は濃度によってはかなり時間がかかるのだ。そもそも再生が追い付かない場合は、出血過多によって死亡する。これが一般的なディスパーダの死因だわな、生命を維持できないレベルにまで損傷すると再生が止まってしまい、ヘラクロリアムが体内から離散する。要するにだ」


 メルセデスは大きな文字を描くと最後に電子ボードを手で叩きつける。


「ディスパーダは、再生よりも体へのダメージが上まる場合に死亡する!そしてレオ君!君はね、いくら傷ついても







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