第30話 真実の裏側

「今回は随分と無理な手に出ましたね大佐」


 時計台の一件を終えたアイザックとクライネは隠れ蓑であるカフェテリアに戻ると、レオを地下にある救護室に運び込み最低限の手当てを施すと、しばらくレオの様子をすぐに声を掛けられる位置で伺っていた。


「ふむ、仕方かなかったとはいえ俺のソレイスに関する非人道的な実験をさせてしまったことは事実だしな、レオが目覚めたら謝罪せねばな。それで殺されても文句は言わんよ、その時は頼むよクライネちゃん」


 アイザックは後悔にも似たような表情でレオの傷ついた体を見回した。


「あらあら、私を巻き込んでおいてとんでもないことを言いますね大佐、その責任はこの作戦が無事に終わるまで果たしてもらいますよ。死ぬならその後にしてくださいねぇ~」


「あはは~手厳しい~」


 クライネは軽蔑の眼差しでアイザックの近くにあったカップにお手製のコーヒーを差し入れる。


「ありがとうねぇクライネちゃん、さーてそろそろ状況を整理するとしようかね」


 アイザックはそういうと腕に装着されていた端末から、付近の情報がまとまったロードマップのホロを空中に展開する。


「うーん、やっぱ当初の想定していたよりかなり深刻なことになってそうだよねぇ。一体この特異点に関する計画にどこまでの人間が関わっているのか、我々はあまり把握出来ていない、レイシス教会の中でも上位幹部にあたるレイロード階級の人達にすら彼の存在は知らされていないみたいだよね。あくまでネクローシスに関することまでか」


 アイザックは腕を組み、クライネに目線で意見を求める素振りをする。


「ですねぇ、この特異点、座標、印に関わっている勢力。今の所判明しているのはそれぞれ別の呼称を用いている三つの勢力ですね、恐らくはレイシス教会の中枢、それとマフィアのエターブですが、裏には恐らく彼らを実効支配できる別の組織が関わっているのでしょう、それにあと一つは......」


「共和国政府、レオを意図的にこちら側に接触させた張本人達だ」


 クライネは怪訝そうな表情で、そのワードに反応する。


「共和国政府......、彼らが裏で手を取り合っていると?」


「それだけはないと思いたいがね、帝国と共和国の開戦したタイミングに合わせて事は動き出し始めたようにも思える。まぁとにかくレオの特異性もこうして確認できたわけだが、中枢の目的がわからんな。レオを使ってどうするつもりなんだ?」


 アイザックは己に何度か問いかけると、クライネが何かを思い出すかのように口を開く。


「ちょっと早いですが、レジスタンスに引き戻りましょう大佐、計画を早めるべきです。明日にでもこの国は中枢に滅ぼされてしまうやもしれません」


 クライネの提案にアイザックは驚きを露わにするが、一理あると見るや顎に手を当て思案を巡らせた。


「ふむ......、あまり急かすのも良くはないとは思うがな......。レオが今こちらの手にある以上は大きくはでてこないと思うがね?」


 アイザックは具体的な知見をクライネに問う。


「確かにそうですが、中枢は既にネクローシスという武器を手にしています。こうしている今も奴らは着々と精鋭を従えて準備を円滑に整えているはず。その最後のパーツにレオさんが必要なのだとしたらもはやこうしてもいられませんよ」


 自体を憂慮し重く受け止めているクライネは、言動に不安を漏らしていた。


「ふむ、一理あるかもねぇ……。よし、計画を早めちゃおうクライネちゃん。レオに関してもこのままここで保護しておくわけにもいかないしねぇ」


「はい、大佐」


 2人の会話が区切りよく終えると、ベットの上に横たわっていたレオの右手がピクリと微動する。


「ん、ここは……」


 状況を理解出来ていないレオはベットの上であたふたと周りを見渡し、アイザックとクライネの存在を確認すると、ここは何やらと辺りを模索する。


「俺は、たしか……レイシスと戦って……それで……」


 気を失う前の記憶を着々と思い出したレオは、自分の体をみて異様な状態であることに気づくと、クライネ達に向けて視線を飛ばした。


「あの傷は、致命傷のはずだった。まず生きていることそのものがおかしい……、あの致命傷をどうやって……?」


 クライネはレオがこちらに視線を飛ばし、状況に誤解を覚えていることを察すると、レオの傍に近寄った。


「レオさん……、あなたにまず言わなければならない事と、謝罪をすべき事が幾つか私達にはあります。まずその傷ですが、私が施したものは応急処置程度のもの、本来致命傷で会った傷の殆どは臓器を始めレオさん自身が修復してしまったようなんです」


 クライネが告げた事実に、レオは混迷するが、やがて今まで自分が歩んできた、あまりに都合のいい、上手く行き過ぎていた傭兵人生に照らし合わせていると、直ぐに冷静さを取り戻していった。


「あぁ……、ははっ、なるほどな……、通りでねぇ……」


 その言葉を聞いたクライネは疑問の表情を浮かべる。


「というと、やはり今までに何か心当たりが?その特別な力について」


 クライネの問に、レオは静かに頷いた。


「今まで何回か、そういう事はあったんだ、よくあんな状況で俺は生き残れてたなぁってな、あん時の俺にはちっとも気づかなかった事だが、今となっては全てが繋がったような気分だよ……」


「というと?具体的にはどんな?」


 クライネは、レオの未知の能力の真髄を鑑みえると見るや、調子の上がった様子でレオに話の続きを促そうとするが、レオは『その前に』と言いながらベットから起き上がる。


「俺がそれを語る前に、まずはクライネさん、アイザックのおっさん。あんた達の全てを俺は知りたい、それを教えてくれるなら俺はあんた達に全面協力するぜ」


 アイザックとクライネは、その突然の提案に困惑する様子を見せるが、2人が目線を交すとすぐ様に意思は固まった様だった。


「分かったよレオ、俺達は正直お前を見くびっていた様だ、たかだが知れている傭兵とな。だが、レオ。全面協力では対等な条件とは言えないなぁ、こっちは全てを話すんだ。そうだなぁ。では我等が目的を達成するまででいい、貴殿は我がアイザック・エルゲードバッハ大佐の忠実な部下として、改めてレジスタンス軍に編入隊するってならいいぞ」


「そう来たか〜!!!」


 思わずレオは、声を張り上げた。











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