第5話 汚兄さん

「角食は大好きかい?」

 遠い昔の記憶。


 隣の汚兄さんはいつも角食を右手に話し掛けてきた。


 川原の土手で二人で並んで角食を食べた。


 いつも熱く角食を語った汚兄さん。

 

 いつの間にか角食が大好きになっていた。


 ある日、汚兄さんはパトカーに乗せられていた。

 どうやら女の子に話し掛けたらしい。


「無罪だ!」


 汚兄さんは警察官に憤慨して捕まれた手を軽く払った。それで警察官は派手に転んだ。


「公務執行妨害!」


 汚兄さんの腕に手錠がはめられた。


 角食を食べ続けた汚兄さんは警察官を軽く吹っ飛ばしたのだ。


 角食はすごい。

 角食は最強だ。


 遠い日の記憶。


 汚兄さんを見た者はそれからいない。


 大人になり、あの時の汚兄さんが分かるようになる。


 子供に熱く角食を語った汚兄さんは確かに異端かも知れない。


 しかし角食ならいい。

 角食ならまだいいんだ。


 『腐角食』


 心を腐られていく腐角食。


 憎悪の炎は激しさを増す。


 ジジ…


 顔が黒く焦げていく。

 焦げた部分を腐食パン餓鬼が端から食べていく。


 新しい腐角食が再生されていく。


 感情の解放。

 それは更なる深淵の闇へ男を誘った。


 『腐食パンマン』

 汚兄さんはもういない。


 『腐食パンマン』

 生きていれば50代半ば。


 『腐食パンマン』

 ふと鼻の奥がツンとなる。


 『腐食パンマン』

 涙なんていらない。


 『腐食パンマン』

 それは余計目が痒くなるから。


 『腐食パンマン』

 ネットで泣ける話は検索しない。


 『腐食パンマン』

 それは目が痒くなるから。


 『腐食パンマン』

 地デジ化の時にテレビは捨てた。


 『腐食パンマン』

 すぐ暇になって買った。(安いAQUOS)


つづく。



  

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