第22話

 

 翌日、俺はアルマに銃の構造や仕組みを説明し、意見を聞いてみた。


『はぁーん……なるほどなぁ……ここがこうなって……ふんふん……』


『どうかな? 作れそう?』


『ん? あー……この "バネ" ってのと "カヤク" ってのがなぁ……』


 仕組みは伝わったようだが、バネと火薬のイメージがいまいち伝わっていないようだ。バネは絵で表すとただグルグル線を書いてあるだけなので、イメージが伝わりにくいのも無理はない。


 ―― バネと火薬の参考になるもの……実物があれば最高なんだが……


 そこまで考えたところで、ふと俺の持ち物に丁度良さそうな物があることに思い当たり、急いでアルマに声をかける。



『……待ってて! 参考になりそうな物持ってくる!』



 俺が家まで取りに戻り、持ってきたのはボールペンとライターだ。


 ボールペンの中には小さなバネが入っているので、これでバネの実物を見せられる。

 ライターの方は発火石で着火するタイプのライターのため、この構造が火薬や火をつける仕組みの参考になればと思ったのだ。


『ほぉ……なるほどな…… "バネ" か……凄いもんだな……こりゃぁ……魔石の強度を一度変えて……いや、魔石自体に弾力性を持たせた方がいいか……? 魔石に一定の魔力を与えて一度固めて……形を作った後にもう一度魔力を加えりゃあ……』


 ボールぺンとライターを渡すと、アルマはもう俺のことは目に入らないとばかりにぶつぶつと呟きながら色々とメモを取っていく。


『ええと……アルマ? もしもーし……』


『……あ、トワ……お父さん……ああなっちゃうと話……全然聞いてくれないから……』


 ティミドがこそっと奥の扉から顔を出し、こっちこっちと手招きしてくれる。


 奥の部屋はダイニングのようで、ティミドが飲み物を出してくれた。その横には彼氏面の……いや実際にティミドの彼氏となったフレドもいた。


『……あの、ごめんね……お父さん……夢中になると……いつもああなの……』


『いや、ティミドのせいじゃないから。声かけてくれてありがとな』


『トワ、新しい武器作んの? 使い慣れたヤツを強化した方がよくね?』


『使い慣れた武器がないんだよ……というか、もしかして二人っきりだったのに邪魔したか?』


 二人と雑談しつつ、もしかして恋人同士の甘い時間を邪魔してしまったかと不安になり聞いてみれば、二人は顔を見合わせ『え?』と首を傾げた後、二人揃って『そ、そんなことないから!』と顔を真っ赤にして否定する。



 ―― んー……青春だなぁ……



『お、俺らのことはいいだろ! それより使い慣れた武器がないってどういうことだよ!?』


 ティミドより早く青春状態を抜け出したフレドが、スティードと同様に俺の武器がないことを問い詰めてくる。


 どういうことと言われても、ないものはないのだからそれ以上に言いようがない。


 故郷では武器を持っていないのが当たり前だったと説明すると、やはりスティードと同じように『信じられない……』と驚愕していた。



『トワ……お前さ、故郷帰るために旅に出るつもりだとか言ってたよな……?』


『ま、まぁ……』


『武器も持ってない状態で言ってたのか……?』


『…………ハイ』


『トワ、お前…………馬鹿だろ…………?』



 フレドに割と本気で呆れられた。


 ティミドが『……い、言い過ぎだよ』とフォローしてくれるが、「言い過ぎ」ということはティミドも同じことを思っていたということだ。


『い、いや! 何の準備もなく旅に出ようとしてないからな!? お金を貯めて、武器も作ろうとしてるし、人も雇おうとしてる!』


 少しでも二人の誤解を解こうと、俺は必死に言葉を重ねる。


『人雇うって言ったって……お前アテあんのかよ?』


 フレドは疑うような目つきでこちらを見てくる。完全に俺は考え無しの馬鹿だと思われているようだ。


『ギ、ギルドがあるだろ?』


『いきなりギルド行っても相手にされないだろ』


『そこは大丈夫! オセロ大会の時にギルドマスターと知り合いになれたんだよ!』



 オセロ大会を通じて色々な人と知り合いになった。

 その中でも運が良かったのは、ノイのギルドマスターと知り合いになれたことだ。


 まだノイに来て日が浅い頃、情報収集と協力者探しを兼ねてギルドに訪れたことがあった。


 結果は悲惨なもので、中に入ることすらできず、門番役に門前払いされてしまった。どうやらギルドは非常に排他的な組織で、紹介がないと入れないようだ。



 ペールやメール、スティードに頼めばもしかしたら入れたかもしれないが、迷惑をかけたくなかったし、あの頃は言葉もまともに喋れず、お金も殆ど持っていなかった。入れたところで情報収集も協力者探しもままならないだろうと思い、時期を待つことにしたのだ。



 オセロ大会を大々的に開くことで、顔と名前を広め、知り合いが増やせたらいいなという狙いはあった。


 知り合いが多ければ多いほど情報収集が捗(はかど)る上、ギルドに紹介してくれる人がいるかもしれないという淡い期待を抱いていたが、まさかギルドマスター本人がオセロ大会に参加してくれるとは思わなかった。嬉しい誤算だ。


 ギルドマスターは30代後半から40代前半くらいの大柄な男で、何度も厳しい戦いを潜り抜けてきたのであろう、まさに歴戦の勇士という風貌をしていた。濃い橙色の髪色と瞳が強い意志を感じさせた。


 オセロ大会の時にギルドマスターの方から俺に声をかけてくれて、オセロの話で盛り上がった。知り合い……オセロ仲間くらいにはランクアップ出来ているはずだ。


『ギルドマスターとぉ? 本当かよ?』


『…………ギルドマスターと?……すごい!』


 フレドは完全に『胡散臭いなー』と疑わしい目で見てくるが、ティミドは素直に称賛してくれる。


『本当だって! 一緒に旅する人を探してるって言ったら、うちには腕利きが揃ってるぜって言ってくれたしな!』


 俺がどうだとばかりに胸を張れば、フレドは『本当に大丈夫かねぇ……』とまだ疑わしい目で見てきやがった。


『大丈夫だって!』


『ハイハイ』



 ……



『……じゃあトワ、ジュウの試作品……完成したら声かけるね……!』


 その後もフレド達とダラダラ喋っていたが、途中でアルマが会話可能な状態になったため話を聞いてみたところ、銃をすぐに作るのは難しいので時間をくれとのことだった。


 アルマの中で何種類かアイディアは浮かんでいるそうなので、試作品を幾つか作ってみるとのことだ。


 ティミド達に見送られつつ、その足でギルドに向かう。

 武器製作にどれくらい時間が取られるか分からなかったため、今日は一日予定を開けておいた。折角なので空いた時間を有効活用しようと思う。



「アポとか取ってないけど……大丈夫かな……?」



 アポなしで入れて貰えないようなら、後日改めて訪問すればいいかくらいの軽い気持ちでギルドに行けば、オセロ大会で知り合った人が何人もいて、前回訪問した時が嘘のようにすんなり中に通された。



 ―― なるほど。元の世界で「人脈人脈」言っている奴がいたが、人脈というのはこういう時に役立つのか。



 ギルドマスターに面会を申し込んだところ、少し待てば時間を作ってくれるとのことで、中で待たせて貰うことにした。


『おートワ、何だ? マスターと打ちに来たのか?』


『トワぁ、お前大会参加しないのか?』


『トワ、また一勝負やろうぜ!』


『トワ! オセロのコツ教えてくれよ! 何かあんだろ?』


 ギルドの中は受付カウンターのような場所と、ギルドメンバーの待機室のような場所に分かれていた。俺は待機室の方に通されたのだが、中では始終オセロの話が振られた。


 適当に数人とオセロ勝負をしつつ時間を潰していると、『トワー、マスターが呼んでるぜー』と声をかけられた。


 受付嬢に案内されながら受付の奥にある階段を登り、二階がギルドマスターの部屋のようだ。



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