君と見た最後の線香花火。

S【雑賀 禅】

第1話

 あれから四年が経った。

 なのに、僕は過去を消化出来ていない。


 四年前の、まだ梅雨が開けない赤子の様にぐずる雨空を思い出す。


 一目見て脳裏に焼き付いた君の姿。

 微笑む君を僕はまだ、忘れられない。


 **


「あのっ! もし、良かったら僕と花火見に行きませんか?」


 ファミリーレストランで、ウェイトレスの仕事をしていた君に、突然語り掛けた僕に驚き目を見張る君。


 幸いホールに居る客は少ない。端から見れば僕は冷や汗をかいているただの変質者。

 断られるのは百も承知の上だった。


 たった数秒の少しの間が怖くなり、僕は怖じ気づいて勢いよく席から立ち上がる。


「……はい」


 鈴がシャンと鳴るような澄んだ声で君は、たった一言だけ、そう肯定して僕の誘いを受けてくれた。


 あの時の高揚感は今でも、はっきりと覚えている。


 凄く嬉しかった。


 冴えない、友達も片手で収まる程しか居ない僕は恋愛にも臆病で、二十歳だったあの時も、当然恋愛経験なんて一つも無いままだった。


 それが、玉砕覚悟の思いで誘った逢い引きが叶った。


 夢を見ているのではないかと、自分の頬を強く力任せでつねる。


 ……とても、痛かった。夢じゃなかった。


 その日から夏が終わるまで、僕は傷一つ無い綺麗な硝子玉の中で淡く柔らかな夢を見続けた。


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