三日目 3/5

「ふう……無事に帰れたな」

「お兄ちゃん!」

 自宅に着くや否や、シュシュが怒り心頭で龍野に詰め寄る。

「お兄ちゃん……私、本気で心配したんだからね!?」

「ああ? あれくらい、何でもねえよ。それより、データ消すなよ」

「うん……って、違うよ! 話をそらさないで!」

「やれやれ、ばれちまったか。何でも言ってくれ」

「何でお兄ちゃん、私を心配させるの!?」

「別に? あいつらを黙らせられるなら、どんな方法でも良かっただけだ」

「よくない! よくないよ、お兄ちゃん!」

「なんか今日、面倒くさいな。つーか、お前が『兄卑』呼びじゃないっての、しっくりこねえな。なんか寂しい!」

「嫌だよ、そんな人をバカにする呼び方なんか!」

「そうか? 呼ばれる側がそれで良ければ、いいんじゃねぇの?」

「っ……!」

「つーかさお前、今日はちょっとおかしいだろ」

「おかしい? 何が?」

「そりゃあ……無駄にテンション高いところがだよ。お前、何かストレス抱えてんじゃねえのか?」

「そんなことない!」

 シュシュが即答する。それを見た龍野は、「やっぱりな」と頷いた。

「ストレス溜めこんでるだろ。何かあったら、俺やみんなに相談しろよ? 手遅れになる前にさ」

「うあああああああっ!」

 逃げるように部屋に駆け込むシュシュ。

「はあ……誰か何か知らないかなぁ?」

「お兄ちゃん!」

「皐月か。何だ?」

「実は私、睦月お姉ちゃんの部屋を盗み聞きしてたんだけど……」

「趣味が悪いぞ、お前」

 龍野は軽く皐月にデコピンする。

「いたっ……。とにかく、これこれこういうわけなのよ」

 シュシュの独白を、ほとんどそのまま龍野に伝える皐月。

「成程。自縄自縛に陥ってるな」

「何それ?」

「今回の睦月の場合だが、自分で勝手に悪い想像を膨らませて、なおかつその考えから抜け出せてないんだ。ここだけの話、普段あいつは俺を『兄卑』って呼んでる」

「あに、ひ……?」

「兄に、いやしいと書いて兄卑。わかるだろ?」

「へえ……面白い呼び方ね」

「それが、今日に限って『お兄ちゃん』って呼んでやがる。お前の話にあった通りだ」

「うん……おかしいわね、睦月お姉ちゃん」

「お前、あいつと仲いいだろ? ちょっと言ってやってくんねえか?」

「うん、わかった。出来るだけやってくるよ」

「頼んだぞ」

 龍野は皐月に後を任せ、うがい手洗いを済ませてから自室に入った。


「流石お兄ちゃん……。私のウソなんか、あっという間に見破っちゃったね」

 その頃シュシュは、ベッドの上で体育座りになっていた。

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