一日目 1/4

 須王龍野は、朝六時に突如届いたメールに踊らされていた。「そろそろシュシュが、成田国際空港に到着する時間よ」という文面である。

「まったく、この調子じゃ朝食はゼリー飲料になるな!」

 現在時刻は六時半。成田駅から成田空港駅に電車が出発するまで、後十分であった。

「よし、駅到着! 近くのコンビニでゼリー買って、電車に飛び込み……朝っぱらから大騒動だな!」

 自身の気力を保つため、大声を上げる龍野。


 五分後、コンビニから飛び出してきた。

「よし、時間は余裕だ! 残高と小銭も準備オーケー!」

 全力疾走で階段を駆け上がり、改札をパスして今度は階段を駆け下りる。

 時間一分前、龍野は電車に乗り込んだ。


 更に十六分後、成田空港駅に到着した龍野。

 改札と荷物検査をパスし、素早く到着ロビーまで向かう。

 その足取りは軽快。庭を悠々と散歩する心構えでいた。

 そして待つこと数分。


「シュシュ!」


 待ち人が姿を現した。

「来なくていいって言ったのに、兄卑あにひ!」

「聞いてねえよ! どうしてわざわざ憎らしい俺の家に泊まろうってんだろうな!?」

 舌戦の光景そのものである。

「それより、家までの足は準備してあるんでしょうね?」

「当然だ! まずJRに乗ろうぜ!」

「ええ! 不本意ですけど!」

 二人は仲悪く電車に乗った。その電車では、終始背を向け合ったままであった。


 成田駅に到着した二人。

 すると、シュシュがさっそく頭にきたようだ。

「用意してないの、足を!?」

「じゃあ分かれて家に向かうか?」

「出来る訳ないでしょ! だいたいここがどんな場所かさえも知らないわ!」

「なら『ニュータウン・セントラル』ってバス停で待ってろ! 徒歩じゃきついだろ!?」

「ええ! まったく、ふざけないで欲しいわ!」

 やはり二人は仲悪く、待ち合わせ場所を決めて別れた。


「同時か……」

「で、ここからどうするの?」

「徒歩で家に行くに決まってるだろ!」

「そんな! 重いわ、これ!」

「何のための車輪だ! 転がして歩け!」

「もう、これはお姉様から賜った物なのに……!」

「仕方無いだろ! そういう道具だ!」

 シュシュは不服そうに、キャリーバッグを転がし始めた。

 歩くこと五分、二人は家に到着した。

「ここが俺の家だ」

「お姉様が、かつて住んでいらっしゃった家……?」

「正確には俺の隣の家だ。今はヴァイスから引き継いだ人達が住んでるよ」

「っ……人の感動を横から奪って!」

「あのな……俺は言いたいことははっきり言う性分なんだよ。ほら、皆が待ちかねてるんだ。早く挨拶するぞ」

「~っ、覚えてなさい!」

 龍野は門の鍵を開け、シュシュを入れる。内から鍵をしっかり閉めた。

「行くぞ。心の準備はいいか?」

「は、は、は、早くしなさい!」

 シュシュが急に緊張しだした。だが龍野は、構うことなく鍵を差し込み、そして玄関を開けた。

「ただいまー。皆、百合華の妹が来たぞー」

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