60-5 スキー旅行
スキー旅行2日目、俺たちは早朝一番乗りでスキー場の山頂に来ていた。
「凄い~~~~綺麗! お兄ちゃま!見て見て!」
「おお!いい景色だ! …………なんか前にも同じセリフを言った様な」
「お兄ちゃん、どうかした?」
「いや、なんか同じセリフをかなり前に言った様な気がしてさ」
「デジャブだね~~」
「そうなのか、後何故か起きてからここに来るまでかなり時間がかかったような、かなりの時間が経過したような?」
「疲れてるんだよお兄ちゃん、今夜一緒に温泉に入って私がマッサージを、全身くまなく……えへへへへへへへへ」
「お姉ちゃま、おっ先~~~~~」
「あーー! 待ってズルい美月ちゃん!」
美月が軽快に急斜面を滑っていく、栞が慌ててブーツを締めて後を追った。
「おーーい気を付けろよ~~」
太陽に照らされ煌めく雪の上をスノーボードで颯爽と滑って行く二人を見送る……本日早朝ホテルにて朝食を食べていた際に、美月がなにやら栞を挑発し始めた。
いつもの通りそれにまんまと乗っかる栞、また俺を賭けて勝負だ~~となり、栞はワザワザレンタルでスノボを借りて本日二人はスノボ対決と相成った……
あ、俺だけスキーは悲しいので、俺も栞と一緒にボード一式を借りている。
ちなみに俺も栞も婆ちゃん仕込まれてそれなりに滑れる……まあ一番下手くそは俺なんだけど……
昨日の夢と違い今日は天気も良く霧など全くない。俺は遠くアルプスの雪山を見つつ二人をゆっくりと追いかけ始めた。
一番乗りでゴンドラに乗り、スキー場の一番上から滑っていく。まだ誰も滑っていない綺麗な雪面、俺は二人の滑走した跡を追う。
時折交差する滑走痕(シュプール)、そして時々消える片方の跡、消えているのは恐らく美月だ。
オーリーと言う基本的な技で身体を後ろに反らしボードをしならせ単独でジャンプする技。
競争しながら技をいれるとか、どうみても美月の方が上手い、まあ俺と比べるとどちらもプロ並みなんだけど……ふん……
俺は急斜面をやっとの事でクリアして二人を追うも、もう姿は全く見えない。
急斜面から傾斜面に切り替わる場所でコースが二股に分岐している。
俺は一度止まってどちらに行ったか思慮する。
「どっちだ?」
傾斜面は圧雪されているので滑走痕がわかりづらい、とりあえずホテル方面に向かおうとした所、なにやら後ろから叫び声が聞こえてくる。
振り向くと、急斜面を直滑降で叫びながら滑り降りてくる人物が……
叫び声、背格好、ウェアから若い女の人だと思われる。
「きゃああああああああああああああああああああ、とめてええええええええええ、そこのあんたとめてええええええええええ!」
「いや、無理だろ……」
いくらなんでもあのスピードを受け止めたら俺の身が持たない。
「スピード落ちるから、転べーーー!」
「むうううううりいいいいいいいいいいいい!」
そう言いながら俺の脇を抜けていく……そしてそのまま斜面脇の防護ネットに激突していった……
「おいおい、大丈夫か?」
俺は防護ネットに絡まっているそいつを助けに行く。
近付くとそいつは頭が下で身体が上の状態、丁度エビ固めの様なあられもない姿で丸まっていた。良く漫画とかで見るベタな態勢でもがいているその人物は俺を見るなり言った。
「ちょ、ちょっとあんた! た、助けなさいよ!」
「あいよ」
そう言われた俺はボード外し、その女子に近付くと手を取り引っ張りした。
「きゃ! ちょっと乱暴にしないで!」
「あ、ごめん」
「もう最悪、ちょっとあんた! なんでぶつかる前に助けないのよ!」
「いや、あのスピードじゃ無理だろ」
「全く女一人助けられないとか最低ね」
今助けたのに酷い言われようである……
「すんませんでした、じゃあ大丈夫そうだから行くね、気を付けて」
「は? ちょっと待ちなさいよ! 私一人で下まで行けって言うの? バカなの? 死ぬの?」
「いや、俺……連れがいるし行かないと」
「また今みたいな事になって怪我でもしたらどう責任取ってくれるのよ!」
「いや、責任って……じゃあどうしろと?」
「教えなさい! あんた滑れんでしょ!」
「いや、まあ……てか滑り方知らないで頂上から降りてくるとかどんだけだよ」
「しょうがないでしょ、乗っちゃったんだから、さあ教えなさい!」
「えーーマジで?」
「あんたも嬉しいでしょ、こんな可愛い私を教えられるなんて!」
「……自分で言うか?」
腰に手を当て胸を張りながら自画自賛するその女子……髪は栗毛のロングで毛先が緩くウエーブしている。顔立ちは少々きつめだが確かに言っている通りの美人顔だ。
ウェアもボードも新品、しかも高級ブランド品……この態度といい、お金持ちのお嬢様に見える……だったら個人レッスンとか受けろよ。
「ほら、さっさと教えなさい、愚図!」
「愚図ってお前な……」
人に何か物を訪ねる時の態度とか教えを請う時の態度をまず教われ、俺以外の奴からな!
「お前? ああ、そうね、私は、
「茜様って……」
「ほら! 上手く滑るにはどうすれば良いの! 早く教えなさい!」
「マジか……しゃーねーなー」
確かに怪我をされたらって思うと寝覚めが悪い……そして困っている人がいると悪人でも助けてしまう……俺の悪い癖なんだろう。
俺は仕方なくこのワガママお嬢様に滑り方を教え始めた。
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