54-2 兄妹と姉妹


 中庭のベンチに腰を掛け雫に話しかけた。

「雫、雫は澪……お姉さんに何か弱味でも握られているのか?」


「ううん……」

 俺がそう聞くと雫は横に首を降る、相変わらずうつ向き下を見ている、こちらに顔を向けないので雫の心が、感情が読めない。


「何か俺に話したい事は無いのか、俺で良ければ相談に乗るぞ、そして出来る限りの協力もする、ここで聞いた事は誰にも話さない、約束する」


「ほ、本当?」

俺がそう言うと雫は顔を上げ俺を見つめる、やはり雫は何か人に言えない闇を持っている……


「ああ、本当だ! 約束する! 絶対に言わない! 俺を信じてくれ、雫」

 俺がそう言うと、俺の目を見つめ、そして少し考えた後、雫がゆっくりと口を開く。



「あ、あのね…………アンちゃん…………女の子同士の……恋愛って……どう思う?」


「………………は?」

 女の子同士の恋愛? 百合って奴? え? 何? どういう事?

雫から唐突に聞かれ俺は戸惑った、え、何で今そんな話しに?


「やっぱり……ダメだよね、そんなの……」



「あ、いや、まあ駄目って事は」

 え? 何? 雫って……そうなの? セシリーと一緒って事? あれ? でも生徒会室に初めて来た時、俺のハーレムに入れろって、いやそんな物は存在しないけど。


「本当!」


「まあ、好きって気持ちは抑えられないって言うし」

ソースは妹……いや……えっとちょっと待て……雫って


「そ、そう……だよね……うん……抑えられない」

 雫は胸の辺りの制服を掴み少し苦しそうに目を瞑る、抑えきれない何かを抑える様に……


「雫は……誰か好きな人が居るのか?」

 まさか、まさかだよな……でも雫って妹によく似ている……顔だけじゃなく色々と……


「う、うん……」


「俺じゃないのか?」

 うわあ自分で言うの恥ずかしい、でも聞かないと話しが進まないし……


「ううん、アンちゃんは大好き、私の初恋の人! でも……私……もっと……もっと好きな人が……居る……の」


「えっと……それって……」

 やっぱりそうなの? えっと……うわ……怖くて聞けない……



「私ね……中学の時その人に告白したの……好きです付き合って下さいって…………でも」


「でも?」


「そんなの駄目だって、だから諦めろって、でも諦め切れなくて……ずっとずっと悩んでた、どんどん落ち込んで行く私を見て、その人は……分かったって」


「分かった?」


「うん……」


「それって」


「うん……一生私と一緒に居てくれるって、私と付き合ってくれるって、その時に付き合ってた彼氏とも別れてくれて、嬉しかった、でも……思ったの、私の為に一生を棒に振るって、そんなのその人の為にならないって、だから……」


「だから?」


「高校に入って直ぐに言ったの……別れてって、私好きな人が出来たからって」


「……それで?」


「そんなの……許さないって……」


「まあ、別れてくれ、ハイそうですかってなるくらいなら最初から付き合って無いだろけど……」

 なんかこれも何処かで聞いたような話しだな……


「アンちゃんがこの学校に入学したのは知ってた……最近ハーレム作って生徒会室に入り浸ってるって言う話しも……」


「ちょ! な、な、なんだその作り話しは!!」

 誰だ! そんな戯言を語ってる奴は! 無いから、ハーレムなんて無いから、おい、いい加減ハーレムタグはずせ!


「あ、あのね、私……アンちゃんの事は本当に大好きなの! 幼稚園の頃からずっと……だから……アンちゃんのハーレムに入れば、普通の男の子が好きになる、普通の高校生になれるかもって……」


「それで俺の所に?」


「うん……ごめ……んなさい」


「いや、それは良いんだけど……」

 いやはや凄い話しになってしまった……ここまで聞けば分かる……その相手、雫の好きな人って……もう一人しか居ない……


 俺は意を決して雫に聞いた。



「あ、あのな……雫は……澪……さんが好きなのか?」



 俺がそう言うと雫はビクっと身体を震わせ下を向く、そして……ゆっくりと頷いた……マジか~~~~~~~


「あ、あの……」

 いや、えっと……何て言ったら良いんだ?……女同士で姉妹でって……



「へ! 変だよね、女の子が好きってだけでも変なのに、お姉ちゃんが好きって、姉妹で付き合うって、おかしいよね、異常だよね、変態さんだよね?」



「うがあああああああああ」

 ヤベエ、流れ弾が飛んできた……


「ど、どうしたの? アンちゃん?」


「いや……何でもない……そ、そうか……雫は知らないのか……」


「え?」


「あ、あのな……実は……俺と栞……妹と……」




「雫!! ここに居たのね!」


「お、お姉ちゃん!」

 髪を振り乱しながら澪が俺達の前に現れる……やっぱり見つかったか……少し早かったな。

 澪は俺と雫を見つめ、雫が少し涙ぐみながら俺と真剣な顔をして話している姿を見て察した。



「雫……まさかこいつに私達の事を……」


 朝登校時に見た澪は微笑を携え、慈愛に満ちた表情をしていたが、今は一変、悪魔の様な表情に変わっている……こわ!!


「ま、待て」


「殺して……殺してやる!」


「お姉ちゃん駄目!」

いつもおっとりしている雫が脱兎の如く立ち上がり澪を前から押さえつける。


「雫離して!」


「ちょ、ちょっと待て」


「どうせ私達姉妹を脅すんでしょ! そしてあんたのハーレムとやらに入れって言うんでしょ! させない! 雫をあんたのハーレムになんか入れない!!」


「いやいやいやいやいやいやいやいや」

あなたの妹さん、ついこないだ自分から来てますけど! いやその前にハーレムなんて存在してないけど!


「お姉ちゃん待って、駄目」



「退いて雫! そいつ殺せない!」

 またか……そのギャグはこの間やった。


「待って、ちょっと待てって、話しを聞けって」


「何よ、何が目的! 私達の身体!? 良いわよ!! 私を好きにしなさいよ! 好きにすればいいわ! でも……雫は渡さないわ! 私の雫よ!!」

なんでそうなる……要らねえよ! お前の身体なんて……いや、まあ凄く良いスタイルだけど、いやいやいやいや、ああああああ、仕方がない、もう澪にも言うしかないのか……


「何もしないって、ああ、もう! 雫! 澪! よく聞けよ、姉妹で付き合う? 全然問題ない! 俺はそんなのでお前らを脅したりしない! だってな……だって…………俺と栞、俺達兄妹もな……は、春から付き合ってるんだああああああああ!!」


「「は?」」

 俺がそう告白すると二人が同時に何言ってるんだこいつという表情になる。


 いや、まあそんな反応になるよな、でもお前らにだけはそんな顔されたくねええええええ!!



 

 

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