52-8 涙の学園祭
「ううう恥ずかしい……」
何で泣いてしまったのか分からない……こんなに泣いたのっていつだか覚えていない、凄く小さい頃に泣いた以来だ、俺がこの年で嗚咽するなんて……
女子陣は着替えをした後に一人を覗いて顔を洗いに行った、もうメイクが皆ボロボロだった。
結局あれから何も出来なかった、俺もいまだに油断をすると泣いてしまう精神状態なのでとりあえず今日は帰ろうと言う事になった。
「お兄ちゃま、美月今日帰るね」
「え?」
そう唯一泣かなかったのは、美月、やっぱり美月は強い子なんだなって思ったが……
「先生に駅まで送って貰うからこのまま帰るね、向こうでも弥生ちゃまに迎えに来て貰うから心配しないでいいよ」
「え、ちょっと美月?」
夜遅いとか、危ないとか、俺が言う前に全部先に対策してしまっている美月、絶対に帰るっていう意志を感じる……なぜ?
「ごめんねお兄ちゃま、美月……ちょっと悔しいから今日帰る」
「悔しい?」
「うん、お姉ちゃまに完敗したから」
「え?」
「後ねお姉ちゃまがちょっと可哀想だから、今日は遠慮しとく」
「可哀想?」
「うん! お兄ちゃまの人でなし!」
「ええええええええ!」
満面の笑みで美月から人でなし呼ばわりをされる、な、何で?
「お兄ちゃま、泣いた理由が分からないでしょ?」
「え? う、うん」
「だ、か、ら、人でなしなの! 美月お兄ちゃまの事がほんのちょっと、ほんのちょっとだけ……嫌いになったよ」
「えーーーーーーー」
その時美月が俺の腰に抱き付く。
「今日はお姉ちゃまに完敗したけど、お兄ちゃまのちょっと嫌な所が見えちゃったけど、でも……お姉ちゃまにまだまだ追い付ける、まだまだ美月にチャンスがあるって分かったから、まあいいかなって」
「美月……、何で俺泣いたんだ? 知ってるなら教えてくれよ」
そう言うと美月は俺から離れ凄く可愛い笑顔で俺を見つめる、そして……
「やーーーーだーーーーよーーーー、べーーーーーーーーだ」
目の下を指で下げ、ベタベタなあかんべーをした。
うう、美月にほんの少しでも嫌いって言われると、また……涙が……
皆が化粧を直して戻って来た、先生に頭を下げ美月を頼み、皆には明日10時に集合しようとだけ言って別れた、さっきの事は一応気を使ってくれたのか誰も何も言わなかった。
「…………」
俺と妹は当然一緒に帰る、物凄く気まずい雰囲気、かといって泣いた理由が分からないので俺からは何も言えない。
妹がウエディングドレスを着ただけで……なぜあんなに泣いてしまったのだろうか?
そして美月が言っていた事は?
考えようとしたが、さっき泣いた事が頭に浮かぶ……恥ずかしさと気まずさと、もう穴があったら入りたい、そして埋めて欲しい……
うちの高校を決めた理由は前にも言ったように、家から近いって事だけ。
その理由だけあって、あっという間に家に着く
良かった、気まずかった、そして妹と一緒に登下校をするようになってから初めて一言も話さなかった。
家に入って玄関で妹が遂に口を開いた。
「お兄ちゃん……ごめんなさい……」
妹は俺に、理由も分からずに、ただ、ただ謝る……そんな事を言う妹に俺は……
「お! お兄ちゃん!!」
俺は妹を抱き締めた……、強く強く抱き締めた、抱きしめたかった、さっきも……、今も……、これからも……
「お兄ちゃん? お兄ちゃん?」
俺は黙って妹を抱き締める、理由は分からない、泣いた理由も分からない、抱き締めた理由も分からない、ただ泣きたかっただけ、ただ抱き締めたかっただけ
「栞……」
「うん……」
俺が抱き締める、最初は戸惑っていた栞はやがて素直に俺に抱かれてくれる、そして抱き締め返してくれる、さっきまでの悲しさが無くなる、不安が解消していく、凄く安心する。
「栞……」
「お兄ちゃん……」
俺と妹はただただ玄関で抱き合っていた……、何もしたくない、部屋にも行きたくない……、今は一瞬でも離したくない、このままでいたい、無理なのは分かっている、でももう少し、もう少しだけ……、もう少しで落ち着くから、明日には普通になれるから…………、だから、だから誰も邪魔しないでくれ、もう少しだけこのままでいさせてくれ、もう少しで俺の心が落ち着くから……、もう少しで俺の心が安らぐから
もう少しだけ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます