50-1 学園祭


 「えーーと、突然ですが……本当に突然ですが、来月学園祭があります、ごめんさなさい」


 ホームルームで俺のクラスの担任通称ジャッ○メント白井里美先生が本当に突然言い始めた、えーーっと学校の描写が今まで殆ど無かったけど一応試験も体育祭とかもやってます……ごめんなさい……


「えっと、とりあえず1年生は教室を使ってなにかをやるって事になってます、それをクラスで決めてください、あと実行委員を二人選出してください、今日のホームルームそれを決めて貰います、えっとじゃあ委員長お願いします……、あ、後、長谷川栞さん、長谷川裕さん、酒々井麻紗美さんの3人は申し訳無いけど、どちらにも参加せずに生徒会の手伝いをお願いします」



「えええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 先生がそう言った瞬間クラス中の女子が絶叫する……主役が居ない学園祭なんてと、特に女子の落胆は大きい……


「えーーーーアダムとイブか織姫彦星、ロミオとジュリエット、君の○は、日本書記、全部栞が居ないと出来ないよおおおおおお」


 クラスの女子がそう絶叫する……


「おい!」

 お前らまさか……そして妹は悔しそうな顔を……おい!


 そして最後の日本書紀って! イザナミとイザナギを兄妹でやったら洒落にならねえよ、あとイザナギが死んだ理由! 高校の学園祭で出来るかそんなネタ!


 それよりも……、俺は生徒会に行く理由を聞こうとした。


「せ、先生……私達は何で生徒会何ですか?」

 そう思い俺が聞こうとする前に、妹が苦虫を潰した様な顔をして先生に聞いた……妹よ……やはり裏で何か画策してたな…………




「えっとごめんね、私じゃ無くて会長の指名なの、理由は会長に聞いてね、あと急で申し訳無いけど、会長が待ってるのでホームルームは良いから今から生徒会室に行ってくれないかな?」


 なんか先生の顔がひきつってる……そうか、会長イギリスのお姫様だからな~~校長から何か言われたか……


「あのおぉ……私もぉですかぁ?」

 ことなかれ主義の麻紗美が先生に聞く、何で私も? と……



「先生! 私は! 私は何故に呼ばれませぬか、私も栞氏と麻紗美氏と一緒にいいいい」


「えっとごめんね、麻紗美さんはお願いされて居るの、セシリーさんは言われていないのよ」


「しょしょんな~~どぼじて、どぼじて」

 泣きながら人差し指をくっ付けたり離したりしている……セシリー……それ俺が生まれる前のアニメじゃね?



 騒然とするクラス、とりあえずここに居ても仕方がないと俺達3人は事情を確認する為に生徒会室に向かった。



「どういう事だ?」


「さあ?」

 二人に問いかけるも分からないと言う……一体何なんだ? 実行委員会で召集されるならまだわかるけど、直接生徒会にって?


「お兄ちゃん、何があっても断ろうね!」


「いや栞、クラスでなんか画策してただろう?」


「し、し、してない! 私は何もしてないよ! ただ演劇とかいいよね、純愛物とかいいよね、最後キスとかだと盛り上がるよねって言っただけ」


「栞が言ったら決まりじゃねえかよ……」

 クラスは過半数が女子なので基本女子の意見しか通らない……当然妹がクラスの絶対女王なので裏切る者など一人も居ない……多数決をすれば妹の意見は確実に過半数を越える、数の暴力とはよく言ったもんだよ……


「私は主役やりたいとか、相手はお兄ちゃんでとか何て一言も言ってないもーーーん」

 言ってなくても空気で分からせられるのが妹の恐ろしさ……

 これってある意味副会長の洗脳よりも怖いんじゃね?


 等とそんな思いを抱きつつ、生徒会室に到着、俺は一呼吸置いてノックをする。


「どうぞ~~」

 なんかすっかり可愛い声になった会長、あのツンツンしていた頃が懐かしい……


「失礼しま~~す」

 後ろに妹と麻紗美を引き連れ扉を開ける………………美智瑠?


「やあ!」

 後ろ姿だけどすぐに分かる、その綺麗な銀髪は他には居ない、扉の前には美智瑠が立っていた、美智瑠は振り返り俺に向かって笑顔で手を挙げる……お前もか……


「えっと……一体」


「長谷川 裕君、長谷川 栞さん、酒々井 麻紗美さん、そして渡ヶ瀬美智瑠さん、よく来てくれました、まずは座って」


「一体何なんですか? 会長」

 俺がそう言うと、笑顔で会長は椅子を指を指す。


「まあ、とりあえず座ってね」

 半ば半強制で座れと促す会長……


「とりあえずぅ、座ろうかぁ」

 そう言って麻紗美が座る……麻紗美に続いて俺達も座った。


 会長は俺達が座ったのを確認すると、一度全員の顔を見てニコリと微笑み話し始めた。


「まずは急に呼び出してごめんなさい、知っての通り生徒会長の那珂川 葵です」

 そう言うと皆の前でお辞儀をする会長……別人としか思えない丁寧な挨拶……て言うかまあ別人なんだよな、ある意味……


「4人は学園祭の事を決めるホームルームを抜けて来て貰った訳なんだけど、本当に申し訳ない、4人には生徒会の手伝いをして貰いたい、いやして貰う事になりました」

 会長がそう言った瞬間妹が立ち上がる。


「お断りします!!」


 そう言って妹は会長を睨んだ、私とお兄ちゃんの邪魔をするな、そんな目付きで……会長は妹を黙って見つめていた。


「まあまあ、とりあえず理由を聞かないか?」

 珍しく敵意を露にする妹をなだめ、話だけでも聞いてみようと提案、妹は俺をじっと見た後に素直に席に着いた。


「ごめんなさいね、栞さん、えっと見ての通り今生徒会は私だけなの、幸いにも生徒会の一員になりたいといってくれる人は何人か来ています、でも4人は知ってる通りに前の私は今の私と違うの……本当は生徒会長を辞めなければならない、私が当選した訳じゃないから……そしてそのなりたいと言ってくれる人達も私は今のところ信用出来ない……副会長の差し金の可能性があるから……」


「副会長の……」


「そう……、そもそも私が会長になれたのも副会長が裏から色々手を回したおかげ、今の栞さんなら分かるけど、昨年の私が何もしないで1年生会長に何てなれるわけがない……」


「でも今のぉ会長さんならぁ、お姫様じゃないですかぁ?」

 麻紗美がそう言う、今の会長は前の会長とは違う、イギリスの王家の血筋だ。


「ありがとう、でも正式にはまだ何も、私は今でも日本人で那珂川家の娘だから」


 会長は首を振り自分の事を否定する。


「それで会長さんは私達に何をさせたいんですか?」

 相変わらず妹は喧嘩腰だが、とりあえず理由を聞いてやるという姿勢にはなった様な気がした。


「うん、生徒会長は女子高だった頃からの名残で昔から会長の人気で決まっていたの、選出されるのは会長一人そしてその会長が他の役員を任命する事になっているのは知っているわね? そして会長選挙は毎年11月、学園祭の後に実施させる事になっている、いわば学園祭は生徒会が皆に1年間ありがとうって言う最後の場なの、毎年演劇をやったり、お店を出したり、何かしらやっていて今回もその為の準備は既に始まっているの……、今年は私一人だから、前の私と今の私は違うからやらないって訳には行かない……、でも今から信頼出来る人を私が探していたら学園祭が終わってしまう……」


「…………」

 俺達は黙って会長の話しを聞いている。


「今、私の事を知っているのはあなた達だけ、私が信頼出来る人もあなた達だけなの、前の私は今の私と違うから何もしないって言うのはあまりにも無責任だし、それは前の私を自分で全否定する事になる……今の私と前の私は違うけど、私の中には確かに彼女は生きている……だから…………お願いします、私を、生徒会を手伝って貰えないでしょうか、前の私の為に、そして毎年生徒会が何かやることを楽しみにして期待している皆の為に……」


 そう言うと会長は俺達に頭を下げた、俺達はそれぞれ顔を見合わせた後に妹を見る。


 妹は美智瑠と麻紗美をみた後に、俺を見つめる……俺が頷くと妹は唇を尖らせ少し怒った顔をした後に目を瞑り、そして頷いた。



「わかりました、会長……でももし……舞台をするなら私が主役でお兄ちゃんが相手ですからね!」

 妹が性懲りもなくそう言うと美智瑠が立ち上がり妹を指差す。


「はああああああ、な、何を言ってる! ずるいぞ栞君!」


「そうだよぉ、クラスでだってぇ、それとなくそう言う雰囲気にしてぇ、いくら栞ちゃんだってぇ少しはえーーって思ってる子だってぇいたんだからぁ、私とかぁ私とかぁ私とかぁ」


「だってえええ、体育祭の時だってお兄ちゃんと二人三脚やろうとしたのに今時危ないからって却下されたしいい、学校のイベントでお兄ちゃんとの思い出って何も無いんだから~~~」


「栞君、それは皆無いんだから一緒だろ!」


「そうだよぉ」


 3人がそれぞれ言いたいことをいい始めた、俺はげんなりして会長を見ると会長は微笑を浮かべ俺を見ていた……


 そのアルカイックスマイルを見て俺は、今の会長の中に確かに前の会長が存在している事を感じ、凄く嬉しく、そしてちょっと悲しい気分になっている自分に気がついていた。

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