45-2 葵の過去


 「と、言うことでわけが分からないんだ」


 美月にこれまでの経緯と今日の副会長の事を包み隠さず全て話す。

 美月はうーーんと悩んでいる様子……やはり美月でも……


「洗脳やマインドコントロールの類いな気がするんだけど」

 俺がそう言うと美月は、それはわかっているかの如く俺に聞き返す。


「うーーん、そうなんだろうけど……お兄ちゃまちなみに洗脳とマインドコントロールって違うのは知ってる?」


「え? 違うのか?」


「うん……マインドコントロールってのは言葉巧みに相手の考えを誘導するって事なんだけど、まあ思い込ませるって感じかな? そして洗脳ってのはそれとは全然違うの」


「全然違う?」


「うん……洗脳ってのは肉体的や精神的に苦痛を与えて一度心を崩壊させ、それを再構築するの……」


「苦痛……まさか……」


「うん、多分その洗脳っぽい……またはその両方……」


「まさか副会長が!!」


「うーーん、でも……多分その副会長って自分の手を汚さないというか、証拠を残すような人とは思えないんだよね」


「どういう事?」


「情報少なすぎてなんとも言えないの、でも直感でそんな気がする……」


「そうだね、洗脳とか分からないけど……副会長については私もそう思う」

 横で聞いていた妹が美月の意見に同意する。


「お兄ちゃま、ちょっといい?」


「え?」

 そう言うと美月は俺の横にいる会長の前に座り真面目な顔から一転思い切り笑顔になり話し始めた、


「こんにちは! 初めまして、私は美月って言うの、お名前教えてくれる?」


 会長は俺の腕にしがみつき、顔を半分隠す


「俺の……俺たちのいとこだよ葵」


「いとこ?」

 腕にしがみつきながら俺を見上げる会長、見た目は高校2年に見えない、もっと上の大人びた顔立ち、スタイルは抜群で胸の大きさも麻紗美と同じかそれ以上、なのに今彼女の目は迷い子のように不安に満ちている。


「葵ちゃんって言うの? 私は美月だよ」


「みつき?」


「そう、お空のお月様、小学校4年生の9歳だよ、葵ちゃんはいくつ?」



「あおい…………にいに……あおい今何歳?」


「え?」


「あおい……わかんない……」


「じゃあ、隣のにいにの名前を教えてくれる」


「にいにだよ」


「にいにの名前は知らない?」


「えっとね、『けい』にいにだよ」


「けい?」


「お尻が光、綺麗なやつと一緒だって」


「蛍か」


「確か那珂川だったな、会長の名前、にいにの名前は、那珂川 蛍か」


「葵ちゃん、にいにって何歳だっけ?」


「にいに? 葵のね2つ上」

 美月は次々に情報を引き出す……そうか本人に聞いてみるってそんな単純な事も思い付かなかった……


「さすが美月、すごいぞ、結構な情報だ」


「うーーーん」


 そう言うと美月は悩み始める……どうした?


「名前が気になるの……まさかね……」


「名前?」


「葵、蛍……」


「何かあるのか? その組み合わせに」


「偶然……でも何か気になるの……もう一人いる? それともにいにはいない? それとも……」


「おい美月」

 美月が俺の前で思考の海に潜って行く……あの前に部屋で見た物凄い集中力で……


「会長……葵、他に何か……」

 美月が考えている間にもう少し何か聞き出せないか会長を見ると、何かトロンとした表情になっていた……


「葵、眠いの……」

 目を擦りながらコクンと頷く、多分今日は、下手をすると何日も寝てないのかも……俺が、にいにがいて、ご飯を食べて安心しているのか……


「じゃあ寝ような」


「うん……」


 えっと寝る所は先生が準備……ちょっと待て……独り暮らしにしては広い先生のマンション、寝る部屋はあるだろう、ただ問題は寝床の数と組み合わせじゃない?



「裕くん、大変!」

 その時先生が部屋に慌てて入って来る……


「どうしました?」


「布団が1枚足りない!」


「へ?」


「家族がよく泊まりに来るから3枚はあるんだけど……」


「ああ、大丈夫ですよ俺はどこでも、何ならこのソファーでも」

 

「駄目よ! お客様をそんな所に寝かせられないわ、でね……あのね……」

 先生はもじもじし始める……なんか嫌な予感


「私のベットセミダブルなの……隣で寝れるスペースは結構あって……、裕くんあの……」

 そこまで言うと先生は言葉を止めた……目線が俺から俺の隣の妹に切り替わる。

 ぶるぶると震えだす先生…………見てないけど隣から物凄い殺気が……


「にいに、眠い……」

 遂に葵が寝たいと宣言、コクンコクンと舟をこぎ始める。


「えっと……一人で寝れる?」


「嫌! あおいが寝てる間に……にいに、またいなくなっちゃう」

 会長は俺の袖をしっかり握り、俺を涙ながらに見つめる……もうかつてのあの威光は全くない、幼い少女になってしまった会長……俺は会長の頭を撫でる。


「大丈夫だよ、いなくなったりしないから」


「ほんと?」


「ああ、ほんとだよ」


「でも……今日は一緒に寝て……にいに……」

 金色の髪、ハーフの美人顔、あのキツかった目つきは今や完全になりをひそめ、外国の少女になってしまった会長に俺は駄目だとは言えない……


「えっと……」

 気が付くと美月がいつの間にか思考の海から帰ってきて俺を見つめている……一緒に寝てくれるって言ったのにという視線……妹が俺の腕を力強く握る……痛い痛い痛い……先生がじとっとした目で俺を見ている……怖い……鉄の棒を体内にテレポートするぞって言ってる気がする……



「えっと……」



 詰んでる……完全に詰んでる……一人って言うのが一番いい選択、でも一人では寝られない状況……

 

 会長は今俺から離れられない、美月はここまで来てくれて、さっきも約束した、でも妹がそれを許す筈もなく、目の前には教師……


「えっと……」

 俺は考える、起死回生の一手を読む読む読む読む読む読む読む読む………………熱い!!



 見えた! 起死回生、逆転の一手が!



「えっと……じゃあ……皆で寝ようか……」


「は?」

「は?」

「は?」

「は?」

 4人の声が揃うって……会長まで……


 いつもこんな話しになるな俺達……





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