44-3 壊れたオモチャ


 「にいに~~」


 俺の目の前に生徒会長が座っている……じっと俺を見つめてはニッコリと笑い愛くるしい表情を浮かべている。


 会長から鍵を貰い先生は会長の家に、栞は着替えを取りに家に戻った。


 そろそろ学校にも人気が無くなってくる時間、今日は吹奏楽部もお休みなのか、学校内はいつもと違い静かだ。


 俺は今後どうするか、思案をしつつ会長を見つめていた……すると……


『コンコン』

 扉を叩く音が!!!


 俺が驚きそちらをそっと見てると


「にいに?」


「しーーーーーー」


「しーーーーーー?」

 ああ、駄目だ声が……


『コンコン』

 再びノックの音が駄目だ、中にいることに気づかれたか……


 居留守は諦め覚悟を決めて俺は扉を開けた………………!!!!


「は~い、ご機嫌麗しくて? 電話が鳴っていたので、こちらかと思いご挨拶に参りましたわ」


「ふ!副会長!!」


「元ね、ふふふ、会長~こんにちわ」


「だ~~~れ? にいに……」


「会長……わからないのか……お前、一体会長に何をした!?」


「何も……何もしてないわよ、ふふふ」


「そんなわけ!!」


 俺が語気を荒げると後ろにいた生徒会書記、たしか夏海って言ったか? が副会長の前に素早く出て俺の前に立ちふさがる……その動きの速さに俺は驚いてしまう……


「夏海さん、ありがとう、大丈夫よ」


 そう言うと夏海は一礼して再び副会長の後ろに控える……あのバカっぽいイメージはまるでない、何かSPの様な気迫まである……なんだこいつら……


「にいに! にいに!!」

 俺の様子を見て会長が心配そうに声をあげる。



「ハイハイ、大丈夫だよ~」



「あらあら、葵さんたら、すっかりあなたになついて、よかったわね」


「お前が、お前が会長をこうしたんじゃないのか?」


「あら怖い、私がそんな事を? ふふふ、してないわよ……」


「じゃあなぜ急にこうなった? お前らが会長か離れたからじゃないのか!?」


 「私たちが辞めた位でこうなるわけないでしょ? でも……そうね、少しくらいは教えといたほうが言いかもね、恨まれても困るし…………逆よ、元々葵はこういう状態だったのよ……」


「は? どういう事だよ?」


「元々こういう状態だった葵を私が見つけたの……もう何年も前にね、そして、それからの葵は私が作ったのよ……ううん、ちょっと違うわね、葵は私のお人形さんだったのよ」


「人形?」


「そうよ、綺麗でしょ葵……色々な服を着せて、色々な事をやらせて……、そして……そうそう、去年は彼氏も作ってあげたのよ! 高校になって生徒会長にまでなった私からのご褒美! 葵は私の可愛いお人形さん……」


「彼氏がご褒美?」


「あら?、そうね男の子なら知らないか……、有名なお人形さんにはね、みんな彼氏がいるのよ? だから葵にも彼氏を作ってあげたの、私がね……、でもね~、本気になっちゃ駄目よね、私のお人形を汚そうとしたから、この間別れさせたの、ふふふふふ」


「別れさせた……」



「だってえ、キスより先はお人形さんには出来ないでしょ、着せ替え人形を脱がせた事ある?」


「あ、あるわけねえだろ!」


「着せ替え人形なんだからエッチな事はできないのよ……それをあの男は……」


「それで別れさせたって言うのか?」


「そうよ、最初は渋ったけどね~、まあ……、簡単よね男って……、お金と…………本当に汚らわしい……」


「…………」


「葵は……綺麗なままの私の、私だけのお人形さん……だったの……」



「人形って……嘘だろ……人間に、一人の人格にそんな事できるわけ……」


「ふふふ、簡単よ……だってほら今の葵ならなんでもできそうでしょ?、あなたの思うがままよ……」


「じゃあ、なぜ、何で会長を……」


「それは、あなた達のせいよ……」


「え? 俺……達?」


「そうよ、でも、もうそんな事はもうどうでもいいわ、ただこれだけははっきり言っておくわ、私のお人形を、私のオモチャを壊したのはあなた達兄妹よ……」



「な!」


「仲の悪い兄妹って思わせておけば……みっともない所を見せておけば……」


「ど、どういう事だよ!!」



「葵は人形では無くなったと言うことよ、 最後にあなたを誘惑しなさいと言ったんだけどね……結局だめだった……」


「な、なんで……」


「あなた達と出会ってから私の言うことを段々と聞かなくなっていった、そして夏休みに完全に…………私の大切なお人形を壊したのはあなたよ!!」


「…………」


「私ね壊れたオモチャに興味はないの、昔から新しいのをすぐに買えるの……ほら見て、これが新しい私のお人形さん、葵よりも可愛いし、葵よりも……色々使えるのよ?  いいでしょう?」


「瑞樹さま、そろそろ……」

 夏海が副会長に耳打ちする……


「ああ……そうね、じゃあ行かないと面倒な人達が帰って来ちゃうわ、ああ、そうそう、そのオモチャの処分はお願いね、壊した張本人のあなたが、あなた達が処分しておいてちょうだい、葵にあげたものは、そのまま持っていって構わないわ……じゃあね……葵……」


「ちょ、ちょっと待てよ!!」


 俺がそう言うと再び夏海が俺の前に立ちふさがり、両手を広げ道を塞ぐようにする……


 それでも俺は叫ぶように聞いた。


「一つだけ聞かせろ! 葵の兄ってのは?」


「え~~さあ? 調べさせたけど、どこにいるやら? 生きてるのか死んでいるのか? まあ、あなたが新しい兄になってあげたんでしょ? いいんじゃないそれで、ふふふ、あはははははは、じゃあね~~にいに、ふふふふふ」


 俺に振り向きもせずに副会長は歩いて行く、俺が追いかけないのを確認し、夏海も副会長の後を追っていった……


 「なんなんだ一体……、会長が人形?」


 振り向くと、会長は俺を見て無邪気に微笑んでいた…………



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